【男1:女1】待宵ノ夢喰

男1:女1/時間目安15分


【題名】
待宵ノ夢喰
(まつよいのばく)


【登場人物】
夢縁(むえん):此岸と彼岸を繋ぐ夢境の番人
沙華(さえか):間違って夢境に入り込んだ人間


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『待宵ノ夢喰』作者:なる
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夢縁(男):
沙華(女):



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001夢縁:おや……?貴方は……ここへ来てはいけない人のようですね。

002沙華:あなたは……?

003夢縁:僕はムエン。此岸(しがん)と彼岸(ひがん)を繋ぐ夢境(むきょう)の番人です。


(少し間)


004沙華M:紅い花に魅入られた彼。


005夢縁M:紅い花の似合わない貴女。


006沙華M:夢か、現(うつつ)か、幻か。もう会えない貴方を見た気がして。


(少し間)


007夢縁:……もうお帰りなさい。紅い花を持たぬお嬢さん。


(少し間)


008沙華(タイトルコール):待宵ノ夢喰(まつよいのばく)






009夢縁:どうしてここへ?貴女の様な花無しが来るところではありませんよ。

010沙華:……分かりません。

011夢縁:そうですか……貴女、お名前は?

012沙華:サエカ、です。

013夢縁:綺麗な貴女に良くお似合いですね。

014沙華:ありがとうございます。

015夢縁:では僕はこれで。

016沙華:あの!

017夢縁:何でしょう?

018沙華:ここはどこなんですか?

019夢縁:ここは夢境と、先程お伝えしましたが……?

020沙華:そういう事じゃなくて、えっと……では、夢境とは何なのでしょうか。

021夢縁:夢境も知らない、と。それは困りましたね。……夢境とは今貴女がいるこの場所の事。言い換えるならば、此岸(しがん)と彼岸(ひがん)を繋ぐ場所の事です。

022沙華:ここはあの世、という事ですか。

023夢縁:それも少し違います。ここは『繋ぐ場所』ですから。あの大きな門の先には川がありまして、そこを渡った先があの世です。

024沙華:まだ死んでないってことですか。……てっきり私死んだのかと。

025夢縁:そうですね、『まだ』お亡くなりではないですね。しかし早く現世に戻らなければ帰れなくなってしまいますよ。

026沙華:それは困ります!私人を探さなきゃいけないんです!

027夢縁:その方はもう亡くなっておいでで?

028沙華:……分からないんです。もう何年も会えてなくて。

029夢縁:そうですか。……ここで少し待ちますか?






030沙華:あの。

031夢縁:はい?

032沙華:ムエン様は人間なんですか?

033夢縁:これまた突然ですね。

034沙華:すみません、変な質問を……。

035夢縁:私は人間……なんですかね?

036沙華:え?

037夢縁:今は……おそらく人間では無いのでしょう。ここに何年もおりますし、目が見えずとも周りの状況が分かるようになりましたから。

038沙華:目、見えてなかったんですね。

039夢縁:ええ。それでも貴女のことは見えていますよ。その綺麗な若草色の着物も、この美しい黒髪に揺れる髪飾りも、そして赤く染ったこの頬も。

040沙華:なっ……!……ムエン様はイジワルですね。

041夢縁:ふふ……すみません、可愛らしくて、つい。

042沙華:もう。

043夢縁:でも私が見えていることはお分かり頂けたでしょう?

044沙華:それはもう、とっても!

045夢縁:それは良かったです。……ではお詫びの代わりと言ってはなんですが、私の身の上話をひとつ。……もう何年も前の話になりますが、私も気がついたらここに立っていたんです。

046沙華:私と同じですね。

047夢縁:えぇ、なので貴女を見つけた時はとても驚きました。……違うのは、私がそこである人と出会った事でしょう。

048沙華:ある人、ですか。

049夢縁:ええ、名前も分かりませんがその方から私はここの門番を頼まれたのです。

050沙華:門番とはどんなお仕事なのですか?

051夢縁:ほとんどやることはありません。ただ紅い花をもつ者と持たぬ者を分けて門の向こうに送り出す。それだけです。

052沙華:紅い花とはどういう……?

053夢縁:貴女は探究心が強いのですね。

054沙華:あっ、すみません!質問ばっかり……

055夢縁:いえ、そういう所も貴女の魅力なんでしょうから。……先程の質問は紅い花についてでしたね。あの紅い花は亡くなる前に花を送られた者がこちらに一緒に持ってくるそうで。なんでも死の王が好きな花だそうで、転生の際に希望をひとつ聞いて貰えるとかなんとか。

056沙華:それはいいですね。

057夢縁:貴女なら何を願いますか?

058沙華:私は……そうだなぁ、頭が良くなりたい、ですかね。

059夢縁:容姿などではなく?

060沙華:はい。……私の探してる人はとても頭がいい人なんです。横に並びたいって、ずっと思ってて。

061夢縁:そうなのですね。どこか有名な家のご子息なのですか?

062沙華:そうらしいですね。ただ、私には家名は教えてくれなかったのでどこの家の人なのかは全く。

063夢縁:そうですか。

064沙華:ムエン様は何を願うのですか?

065夢縁:私は……私も会いたい人がいるのです。

066沙華:会いたい人、ですか。

067夢縁:ええ。私の最愛でした。最後に会ったのは私が家を出た時でしたかね。

068沙華:それでどうしてこんな所に?

069夢縁:事故に遭ってしまって。ここに来た時の私は貴女と同じ様に花無しでしたから、それはもう不審がられまして。事情を話してここで待たせて頂くことにしたんです。

070沙華:向こうの世界の貴方はもう……?

071夢縁:さぁ……どうでしょうね。ここからでは現世の事は分からないのです。彼岸(ひがん)に渡れば現世を見る事ができる場所もあるみたいですが。

072沙華:そこには行かれないのですか?

073夢縁:彼岸に渡ってしまえば最後。こちらに戻ってくる事は二度と出来ないのです。私は……彼女が来たら伝えなければならないのです、『こちらにまだ来てはいけない』と。

074沙華:一緒に現世に戻れるといいですね。

075夢縁:私は戻れませんよ。

076沙華:その方と一緒に現世に戻るために待っている訳では無いのですか?

077夢縁:私はこの目と引き換えに、夢境に留まる許しを貰ったんです。その証であるこの花は既に私の一部になってしまいましたから、現世に戻れば消え、私も消えます。

078沙華:そんな……!

079夢縁:時が経ちすぎてしまったのですよ。

080沙華:戻りたいとは思わないのですか?

081夢縁:……ここでの暮らしもいいものですよ。こうして自分の人生を振り返りながら歩く者たちの背中を眺めてお茶を飲むのも悪くないです。現世にいた時の記憶もほとんど残っていないもので、不思議も戻りたいという気持ちも無いのです。

082沙華:……そうですか。

083夢縁:それに……夢から堕ちてここに迷い込む貴女の様な人を夢に帰してあげるのも私の仕事ですから、寂しくはないですよ。

084沙華:私ももう帰されてしまうのですか?

085夢縁:はい。

086沙華:……私もここに残ります!

087夢縁:何故?

088沙華:何故かは分かりませんが……ここに残りたいと思ってしまいました。

089夢縁:それはダメです。

090沙華:貴女を1人にしてはいけない気がしてならないのです。……どうか、お願いします。

091夢縁:……貴女にはまだやる事が残っているのでしょう。

092沙華:……いえ。

093夢縁:……ご両親と言い合いをしたのでしょう、そのままでいいのですか?婚約者様はどうするのです?妹さんは?ご友人は?……ここに来るということは、もう会えないのですよ。

094沙華:そんな……そんな事を言われれば、心が揺れると分かっていて仰っているのでしょう。

095夢縁:ええ、そうですよ。……揺れる心がまだあるなら、大事にしなさい。

096沙華:……イジワルね。

097夢縁:何とでも。

098沙華:また会えますか?

099夢縁:その心残りを全部済ませた頃にきっとまた会えますよ。

100沙華:約束ですよ。

101夢縁:ふふ。……もうお帰りなさい、紅い花の似合わないお嬢さん。

102沙華:私の事、忘れないでくださいね。

103夢縁:さぁ、目を閉じて。夢に帰る時間です。


(間)


104夢縁:いつまでも、この待つ宵(まつよい)で君を待っているよ、サエカ。


(終)


待宵(まつよい):
来るはずのない人を待つ、夜が来てまもない頃のこと


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Special Thanks 

むー様

この台本はむー様の絵を元に書かせていただいた台本です。台本に興味持って頂けた方、ぜひむー様の絵も見てくださいませ。

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