【男1:女1】クリュティエを喰む

男1:女1/時間目安20分


【題名】
クリュティエを喰む
(クリュティエをはむ)


【登場人物】
三上譲(みかみゆずる):太陽に想いを馳せている人
林夏帆(はやしかほ):一輪の花の為に太陽を手に入れた人
石塚楓(いしづかかえで):図書館で働いている皆の太陽(名前のみ登場、セリフなし)


(以下をコピーしてお使い下さい)

『クリュティエを喰む』作者:なる
https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/36549283
譲(男):
夏帆(女):



-------- ✽ --------





001夏帆M:彼は今日も太陽を見つめていた。


002譲M:毎週月曜日、図書館の2階。


003夏帆M:あの太陽も、太陽の下(もと)に咲く花も、私のものだというのに。


004譲M:大きな窓の側に座る彼女を見るのが好きだった。


005夏帆M:今はまだ雲の中に隠しておこう。






【図書館】


006譲:ここ座っていい?

007夏帆:あぁ、くーちゃん。どうぞ。

008譲:その呼び方するなって言ったろ。あと、そこ俺の席な。

009夏帆:週に1回しか来ないくせに俺の席って。ふふ。

010譲:なんだよ。

011夏帆:いやー?そんなにあの女の子が気になるんだなって。ここの席からよく見えるもんね?

012譲:やめろって。

013夏帆:くーちゃん可愛い。

014譲:揶揄うなよ。それにその呼び方も。

015夏帆:だってくーちゃんはくーちゃんじゃない。他にどう呼ぶの?

016譲:俺にはミカミ ユズルって名前があるんだけど?

017夏帆:そうね。

018譲:だからくーちゃんって呼び方はおかしいだろ?

019夏帆:いや?おかしくないよ?クリュティエのくーちゃんでしょう。

020譲:前々から思ってたけどそのクリュティエって何?

021夏帆:クリュティエはね、神話に出てくる水の精の事。

022譲:それで俺になんの関係があるんだよ。

023夏帆:クリュティエはね、アポロンって太陽の神様に恋をするの。でもアポロンにはカイアラピっていう好きな人がいたから、クリュティエは叶わぬ恋をしてた。切ない気持ちを抱えたまま、クリュティエは9日間同じ場所に立ってアポロンの姿を追っていたら、いつの間にかひまわりになってしまいました。……っていう話の主人公だよ。

024譲:俺はアポロンじゃなくてクリュティエだと。

025夏帆:そう。毎週月曜日にここに通って、あの子が見える位置に座って、終わるまで勉強してる振りをしながら見つめてる。ほら、クリュティエと一緒。

026譲:バカっ!聞こえたらどうするんだよ。

027夏帆:くーちゃんが静かにすれば聞こえないよ。

028譲:そういうハヤシはなんで毎週ここに居るんだ?

027夏帆:くーちゃんと一緒にしないで。私は週3回来てるの。くーちゃんと違って、ちゃんと勉強しに来てるから。

028譲:俺が不純みたいに言うなよ。

029夏帆:そうは言ってないよ?後ろめたい気持ちがあるからそう思うんじゃない?

030譲:うるせ。

031夏帆:学期末の勉強ちゃんとしてる?

032譲:してるよ、一応。

033夏帆:追試になってここに来られなくなったら困るもんね。

034譲:別にそういう訳じゃないけど。

035夏帆:ふぅん。まぁ私はここに来たいからちゃんと勉強してるけどね。

036譲:俺と同じじゃん。

037夏帆:ちゃんと勉強してるかしてないかの差は大きいでしょ。

038譲:まぁ、そうだな。……ハヤシはなんでここに通ってるんだ?

039夏帆:どうしてだと思う?

040譲:目当ての人がいるから?

041夏帆:半分正解。

042譲:なんだ半分って。

043夏帆:理由その1、恋人がいるから。理由その2、本が沢山読めるから。以上。

044譲:おお〜。

045夏帆:何その反応。

046譲:ハヤシらしい回答すぎて感心した。

047夏帆:そう。それは何より。

048譲:てかハヤシ彼氏いたんだ。

049夏帆:まぁね。

050譲:え、どの人?

051夏帆:くーちゃんが次の期末試験で学年10位以内に入れたら教えてあげる。

052譲:教える気がないって事だけはよく分かった。

053夏帆:そんな事ないよ?10位に入れたら教えてあげるって。

054譲:いつも下から数えた方が早いのに10位なんて取れると思うか?

055夏帆:勉強したら取れるよ。

056譲:流石上位ランカーは違うな〜。

(夏帆が席を立つ)

057夏帆:まぁ頑張って。

058譲:どこ行くんだ?

059夏帆:次に借りる本探してくる。

060譲:なるほど。行ってらっしゃい。

061夏帆:ちゃんと勉強しなよ。

062譲:はいはい。分かりましたよ。






【図書館前】


063夏帆:あれ、くーちゃん?

064譲:お、ハヤシじゃん。久しぶり。

065夏帆:まだ図書館通ってたんだ。

066譲:ちゃんと課題をやりにな。

067夏帆:補講は免れたの?

068譲:赤点は無事回避しましたー。

069夏帆:それは何より。じゃあこれあげる。

070譲:お、アイスじゃん。どうしたのこれ。

071夏帆:多めに買ったの。補講回避のご褒美にあげる。

072譲:さんきゅ。

073夏帆:今日はいた?

074譲:ん?……あー、イシヅカさん?

075夏帆:そう。イシヅカさん。

076譲:いたよ。

077夏帆:ふぅん。夏休みなのにちゃんと通ってるんだね、くーちゃん。

078譲:うるせ。……接点ないんだから仕方ないだろ。

079夏帆:くーちゃんに必要なのは勇気だね。

080譲:どうせ意気地無しだよ。

081夏帆:いい男だと思うんだけどな〜。話しかけてみなよ。

082譲:無理だって。大体どう話しかけるんだよ。

083夏帆:おすすめの本とか聞いたらいいじゃん。本の事なら沢山知ってるし。

084譲:まぁ、そうか。今度聞いてみるか……。

085夏帆:そうしなそうしな。

086譲:次行く時にでも話しかけてみるよ。

087夏帆:頑張ってね。

088譲:ハヤシはこれから図書館行くのか?

089夏帆:本の返却しようと思って。あと新しい本を借りに。

090譲:それ先週借りてたやつじゃないか?

091夏帆:そうだよ。

092譲:読むの早くね……?

093夏帆:そんな事ないよ。こういう本は読み終わるのに1日必要だもん。

094譲:いや、充分早いだろ。

095夏帆:私本の虫だから。くーちゃんよりは読むの早いよ。

096譲:本の虫……?

097夏帆:ふふ。イシヅカさんのことナンパするのは本の虫について調べてからにしなよ。

098譲:ナンパ、ってお前なぁ!

099夏帆:間違ってないでしょ。それに、あの子も本の虫だよ。さぁここで問題です。私とあの子の共通点は何でしょう。

100譲:はぁ?……えっと……。

101夏帆:頑張って考えてね。じゃ、また今度。

102譲:お、おう。

103夏帆:ああ、そのアイス。溶ける前に食べなよ。

104譲:あ、やべ!忘れてた!


(間)


105夏帆:こんにちは、お姉さん。

106夏帆:ふふ。驚かせようと思って。

107夏帆:うん。今日は終わりの時間までいるつもり。18時だよね、終わるの。

108夏帆:おっけー。それまで課題して待ってる。

109夏帆:そうだ、この本返却したいの。

110夏帆:こっちは面白かったよ。おすすめ。こっちは微妙だったかな。私はあんまり興味わかなかった。

111夏帆:なんかオススメない?

112夏帆:ほんと神話の本好きだよね。

113夏帆:まぁそうだね。私達が知り合ったのも神話の本がきっかけだもんね。

114夏帆:神話に例えるなら、か……アポロンかな?

115夏帆:そう。太陽神。私の太陽。

116夏帆:照れちゃって。顔真っ赤だよ?

117夏帆:ふふ。おすすめの本持ってくるから、ちゃんと熱冷ましといて。






【図書館内】


118譲:なぁハヤシ。ここどうやって解くんだ?

119夏帆:ここはこの公式を使って、あとこの数字を使う。

120譲:あーなるほどな。さんきゅ。

121夏帆:どういたしまして。

122譲:……それ何の本?

123夏帆:神話。

124譲:面白い?

125夏帆:面白いよ。読んでみる?

126譲:いや、字が小さい。

127夏帆:ふふ。くーちゃん面白い。

128譲:字が小さい本は受け付けないんだよ。身体が。

129夏帆:カエデは神話好きだよ?それでも読まない?

130譲:……挑戦はしてみようかな。

131夏帆:そうだ。カエデから初心者向けの神話の本聞いたらいいじゃん。喜んで教えてくれるよ。

132譲:その手があったか。……っていうか、イシヅカさんといつ仲良くなったんだ?

133夏帆:同じ神話好きとして、つい最近?

134譲:……抜け駆けしやがって……。

135夏帆:抜け駆けって言うけどね、神話の棚見てる時に知り合ってるのよ。かなり前に。挨拶交わすくらいの仲だけどね。

136譲:そうか……。

137夏帆:くーちゃんならきっと大丈夫。頑張って。必要なのは勇気だよ。

138譲:よし……頑張って話しかけてみる。

139夏帆:その課題が終わってからね。ほら、早くやらないと終わらないよ?

140譲:もう課題終わったのか?

141夏帆:もちろん。全部終わらせた。じゃなきゃここで優雅に本なんて読まない。……あ、見せないから。

142譲:先に言うなよ。

143夏帆:教えるのはいいけど課題は見せない。

144譲:じゃあこの問題。教えて。

145夏帆:はいはい。


(間)


146夏帆:とりあえずここまで教えたらあとは出来るね。

147譲:どっか行くのか?

148夏帆:今日はこの辺で帰る。

149譲:この後用事?

150夏帆:うん。ちょっとね。

151譲:デートか?

152夏帆:まぁそんなとこ。

153譲:え……まじか。

154夏帆:じゃ、お先に。またね。

155譲:おう、またな。


(間)


156譲:(伸びをする)この辺で終わりにするか……あ、やべ、本の返却……。

157譲:すいませーん。本の返却をしたいんですが。

158譲:いえいえ。……あの、イシヅカさんってもう帰られたんですか?

159譲:あ、いえ。イシヅカさんの友達……の友達です。よく姿をお見かけするので気になって。

160譲:今日は早上がり……そうなんですね。

161譲:あ、いえ。伝言とかは特に。また会うと思いますし大丈夫です。ありがとうございます。

162譲:いや、俺は特に知らないですね。

163譲:男と2人で……へぇ。

164譲:あ、いえいえ。ありがとうございました。






165夏帆:やぁクリュティエくん。そんなにしょんぼりしてどうしたんだい?

166譲:あぁ、ハヤシか。……別に。

167夏帆:うーん。……振られた?

168譲:まぁそんなとこ。

169夏帆:え、告白したの?

170譲:してない。

171夏帆:……くーちゃんってもしかして妄想激しいタイプ?

172譲:違うよ!……はぁ……イシヅカさん、彼氏いるんだって。

173夏帆:誰情報?

174譲:図書館のおばさん。

175夏帆:ふぅん。……彼氏どんな人なの?

176譲:背が高くて、スーツ着てて、イケメン。

177夏帆:在り来りな特徴ね。他に特徴は?

178譲:あ、あと足を引き摺ってて、左目の下にほくろがあるって言ってた。

179夏帆:……それたぶんカエデのお兄さんだよ。

180譲:……へ?

181夏帆:夏はお兄さんが帰ってくるんだってカエデ言ってたから。普段は東京にいるらしいし。

182譲:そう、なんだ。……よかった……。

183夏帆:あぁ、でもカエデ恋人いないかどうかはわかんないよ。

184譲:え。

185夏帆:そういう話聞いたことないから。

186譲:そっか……。

187夏帆:ま、とりあえず本人に聞いてみるんだね〜。

188譲:ハヤシ手伝ってくれよ。

189夏帆:なんでよ。

190譲:イシヅカさんの友達だろ?

191夏帆:嫌だね。興味無いもん。

192譲:そう言うなよ〜。

193夏帆:好きなら腹括りなさいよ。私はそういう事に手を貸さないって決めてるの。

194譲:分かったよ……。

195夏帆:まぁ、振られたら慰めてあげるから。

196譲:振られる前提かよ。

197夏帆:ふふふ。頑張って。


(間)


198譲:そういえばさ、ハヤシの恋人は?何か教えてくれよ、恋人のこと。

199夏帆:そうだなぁ。……課題何教科分終わった?

200譲:3教科。

201夏帆:じゃあ3つ質問に答えてあげる。名前以外ならなんでも答えてあげる。

202譲:お、まじ?

203夏帆:女に二言はないよ。

204譲:よし。じゃあ1つ目。何組?

205夏帆:知らない。

206譲:え、知らないの?

207夏帆:うん。興味無いから聞いてない。

208譲:そっか。割とサッパリしてるんだな。

209夏帆:どこのクラスかなんてわざわざ話するの?

210譲:たぶんする……んじゃないか?

211夏帆:……そう。

212譲:あ、じゃあ2つ目。学校で交流ある?

213夏帆:ない。一応隠してるから関わりないよ。

214譲:ほぉ……学園祭とかも?

215夏帆:それは質問の3つ目?

216譲:これは交流の延長戦の質問だろ?おまけしてくれよ。

217夏帆:はぁ……まぁいいや。今年の学園祭は一緒に回った。

218譲:って事は俺会ってるよな……?

219夏帆:質問3つ目?

220譲:いや、違う違う。独り言。

221夏帆:そう。……3つ目は?

222譲:じゃあ……好きなところ3つ教えて。

223夏帆:うわ、ずる。

224譲:いいだろ?

225夏帆:ずるいから2つしか教えない。

226譲:まぁいいだろう。

227夏帆:好きなところね……私以上に本が好きなところといつもお日様の匂いがするところ、かな。

228譲:なんだ……ハヤシもちゃんと乙女なんだな。

229夏帆:私のことなんだと思ってるの。

230譲:なんかサバサバしてる感じ?ツンデレ?

231夏帆:私の恋人は可愛いからいいのこれで。釣り合い取れてるから。

232譲:はいはい、そうですかー。惚気は間に合ってまーす。

233夏帆:聞いたのそっちでしょう。……まぁいいや。

234譲:誰か検討もつかないな……。

235夏帆:じゃあ答え分かったら教えてね。答え合わせしてあげるから。






236譲:あの、ちょっと神話の本を探してて。最近興味が湧いて、それで初心者でも楽しめるようなオススメのやつとかありませんかね。

237譲:えっと、カホ……。

238譲:あ、そう。ハヤシの友達です。

239譲:ぜひお願いしたいです。

240譲:はい。……あの。

241譲:彼氏とかいるんですか?

242譲:……あ、急にすみません。この前ハヤシとその話したのを急に思い出して。全然嫌だったらいいんですけど。

243譲:ああ……そう、なんですね。……どんな方なんですか?

244譲:そうですか。……素敵な方なんですね。

245譲:いや、凄く優しい顔をしてるから。

246譲:はい。……あ、本ありがとうございました。じっくり読んでみますね。……じゃあまた。






247夏帆:蝉、煩いねぇ。

248譲:ああ。

249夏帆:蝉の鳴き声聞いてると夏だなぁって感じするよね。

250譲:そうだな。

251夏帆:……なんかあった?

252譲:別にー。

253夏帆:振られたか。

254譲:え。

255夏帆:くーちゃん、カエデの事見てる時泣きそうな顔してるもん。

256譲:そんな事。

257夏帆:あるよ。切なーい顔してる。……とっても綺麗。

258譲:この前聞いたんだよ。彼氏がいるかどうか。……そしたらいるって。

259夏帆:そう。

260譲:……知ってたのか?

261夏帆:うん。

262譲:教えてくれてもよかったじゃないか。

263夏帆:どうして?


264譲M:くすくすと笑って、ハヤシは少し開いていた窓を全開にした。


265夏帆:ねぇくーちゃん。


266譲M:蝉の声が煩くて、他の音がよく聞こえない。


267夏帆:カイアラピは私だよ。(耳元で囁くイメージ)

268譲:……え。

269夏帆:ふふ。ごめんね?カエデは私のだから。


270譲M:蝉の声が煩くて、外からの熱気が暑すぎて、何も考えが追いつかない。


271夏帆M:戸惑う姿も、太陽を見つめるその目も、全てが愛おしい。……愛に飢えた花も、愛される太陽も、全て私のもの。


272譲:あの……俺、帰るわ。

273夏帆:あら、そう?じゃあまたね。

274譲:あ、あぁ。


275夏帆M:愛に歪んだその花は、初めて太陽に背を向けた。


(終)



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