【男1:女1】「もしもし」(逆転版)

男1:女1/時間目安15分


【題名】
「もしもし」(逆転版)


【登場人物】
男:死んだ恋人を忘れられずにいる
女:10年以上前に事故で他界


(以下をコピーしてお使い下さい)

「もしもし」作者:なる
https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/34457061
男:
女:



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001 女N:最近とある公衆電話が話題となった。その公衆電話から深夜0時に電話をかけると霊界に繋がる、という事らしい。周りには街灯1つしかなく、近くの住宅までは歩いて15分かかる。そんな迷信とも思われる噂を信じて電車に揺られる男がいた。受話器を上げ、五円玉を一つ入れる。1・4・1・0・6。


<電話が鳴る>


002 男:もしもし……?

003 女:……もしもし。久しぶり。


004 男N:今日も冥界への電話がひとつ。


(間)


005 女:もしもーし。聞こえてる?

006 男:……うん。聞こえてる。

007 女:これどういう原理で繋がってるの?

008 男:俺もわかんない。

009 女:え、まさか死んだとかじゃないよね?

010 男:違う。俺は生きてる。

011 女:それなら良かった。

012 男:うん。……公衆電話に五円玉入れたらなんか、繋がった。

013 女:公衆電話に五円玉って入るんだっけ?

014 男:今かけてる電話は五円玉しか入らないらしい。

015 女:へぇ、面白いね。ご縁が繋がりますようにーとかそういうやつかな?……もしもーし?

016 男:あっ、ごめん。まさか繋がると思ってなかったから。その、結構びっくりしてる。

017 女:まぁそうだよね。私も電話がかかってくるとは思ってなかった。

018 男:うん。……そっちはどんな感じ?

019 女:普通だよ。世界はそんなに変わらないかな。仕事もしてる。

020 男:そうなんだ。なんの仕事してるの?

021 女:魂の管理の仕事。

022 男:どんな仕事?

023 女:そっちでいうカウンセリングみたいな。疲れてる魂を癒して転生の手伝いをする仕事。

024 男:なれたんだ、カウンセラー。

025 女:うん。

026 男:良かったね。なりたいって言ってたもんね。

027 女:まぁ大変なことも多いけど、それなりに楽しくやってるよ。……そっちは変わらず?

028 男:ちゃんと第一志望の会社入った。

029 女:え、凄いじゃん!

030 男:そこで今部長やってる。

031 女:新卒で?!え、それ凄くない?!

032 男:新卒なわけないじゃん。もう10年だよ。

033 女:あ、そっか。……ごめん。

034 男:謝らないで。


(間)


035 女:元気にしてる?

036 男:してるよ。

037 女:ちゃんとご飯食べてる?

038 男:うん。食べてる。

039 女:料理、少しはできるようになった?

040 男:今は家に作ってくれる人がいるし、俺も前よりかは作ってる。

041 女:もしかして結婚した……?

042 男:してない。

043 女:そ、っか。

044 男:してて欲しかった?

045 女:うーん。半々かな。結婚してて欲しかったとも思うけど、結婚してなくて良かったと思う自分もいる。

046 男:そう。……そっちこそ恋人出来た?

047 女:出来ないよ。なんだろうなぁ。死後の世界だからかもしれないけどさ、不思議とこっちで出会う人を好きになるとか無いんだよね。

048 男:そっか。

049 女:新しい恋人でもいた方が良かった?

050 男:聞くなよ、そういう事。

051 女:どうなの?

052 男:そうだな……新しい恋人でもいた方が吹っ切れたかもしれない。

053 女:……ごめんね。

054 男:あの時、一緒にそっちに行けたら良かったって。ずっと思ってた。

055 女:そんな事言わないでよ。

056 男:恋人が死んだら皆そう思うんじゃない?

057 女:……そう、か。

058 男:無我夢中で仕事してさ。……死なないように必死だった。

059 女:こうやってまた話すのがこっちじゃなくて良かった。……よく耐えたね。

060 男:手繋いだ時の柔らかい手とかさ。体温が高くて布団替わりになる温もりとかさ。……もう全部忘れた。

061 女:うん。

062 男:……どうして先に逝ったの。

063 女:先に逝くつもりなんて無かったんだけどね。

064 男:あの日行く予定だったカフェ、もう潰れちゃったんだよ。

065 女:ごめん。

066 男:いつもより気合い入れて髪の毛のセットしたんだけどな。

067 女:うん。

068 男:なんで事故にあったのがお前だったんだよ。

069 女:小さい子がね、ボールを追いかけて車道に飛び出したの。そこに車が来て、それを助けた。それだけだよ。

070 男:それで死んだだろ。……死んじゃ意味ない。

071 女:それで小さい子は死なずに済んだ。痛い思いもしてない。違う?

072 男:どこまでお人好しなんだよ。

073 女:子供は宝だからね。

074 男:本当に好きだね、子供。

075 女:うん。

076 男:心残りはない?

077 女:今無くなった。

078 男:どういう意味?

079 女:何も言わずに置いてきたのが心残りだったから。それも今叶った。もう心残りはないよ。

080 男:そう。

081 女:何か言いたいことは?

082 男:なんでそんな急かすような言い方するんだよ。

083 女:たぶんもうすぐ電話切れちゃうから。

084 男:嫌だ。

085 女:……ごめんね。

086 男:……そっちから俺のことって見えるの?

087 女:うん。見える場所があるよ。

088 男:じゃあ見てて。俺が幸せになるところ。一人でも大丈夫ってところ、ちゃんと見てて。

089 女:分かった。……でもさ、

090 男:うん。

091 女:一人じゃなくて、誰かと一緒に幸せになって欲しいな。

092 男:……どうして?

093 女:一人で生きるのが上手じゃない人だから。

094 男:俺が?

095 女:そうだよ。色々溜め込んで壊れちゃうから。無理に作れとは言わないけど、寄りかかれる人を見つけられたらいいなって思うよ。

096 男:寄りかかれる人……か。

097 女:心当たりがあるんじゃない?

098 男:ないわけじゃないけど……。

099 女:そっか。……よかった。一人じゃないなら。

100 男:うん。寄りかかれるかは分からないけど。

101 女:きっと大丈夫。私もついてるから。

102 男:ちゃんと後ろにいてね。

103 女:分かったって。

104 男:……約束な。

105 女:うん、約束。……じゃあそろそろ。

106 男:うん。……じゃあ。

107 女:またね。

108 男:また、ね。


<電話が切れる>


109 女M:またご縁がありますように。愛してるよ。


110 男M:受話器を置いて、外に出る。暗さが嘘だったかのように、空には朝日が昇っていた。振り返ると、電話ボックスは消えていた。


111 女N:今日もどこかで、冥界への電話がひとつ。


(終)



追記.
「眠りのクラヴァット」という台本も合わせてお読み頂くと、少し印象が変わるかもしれません。

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