【男1:女1】太陽の花と忘却の石

男1: 女1/時間目安 20分


【題名】
太陽の花と忘却の石


【登場人物】
旅人:世界を見て回る旅人。
魔女:森に住む魔女。


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『太陽の花と忘却の石』
作者:なる
https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/7725870
旅人(男):
魔女(女):



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001 魔女M:貴方がまたここに戻ってきたら、その時に貴方の思いを教えて?今じゃなくていいの。だから……これは約束。待ってるから。



002 魔女N:知られずの森、人々からそう呼ばれる森がある。なんでも、魔法が掛けられているせいで森の生態系も広さも分からないから未知の森……という意味を込めて付けられたとか。あとは……そこに『何を』置いてきてもバレない、知られないから知られずの森……なんて噂も。


003 旅人N:そこには魔女が住んでいた。魔女は『森の魔女』と呼ばれ、人々から気味悪がられていた。何故気味悪がられていたかって?それは……魔女は歳をとらなかったからだ。10年、20年、30年、初めはよかった。人々は何も思わなかった。しかし、50年が経った時、人々は奇妙に思い始めた。彼女の容姿が変わらないことに。……そして100年が経った。魔女がまだ街で暮らしていた頃を知るものはいなくなった。しかし、噂はしっかりと受け継がれていった。『知られずの森に近づいてはいけない。魔女に喰われて生気を奪われてしまうから』と。






004 魔女:はぁ……暇。

005 旅人:暇なんですか?

006 魔女:誰!?

007 旅人:旅人です。

008 魔女:なんでこんな所に?ここは知られずの森だよ?

009 旅人:知っていますよ。

010 魔女:貴方は……私の事怖くないの?

011 旅人:怖くないですよ。噂通りなら森の魔女は人間を喰らうらしいんですが……貴女は私の事を食べるんですか?

012 魔女:そんな訳ないじゃない。血を見るのも苦手なのにそんな事したら……あぁ、考えるだけでも気持ち悪い。

013 旅人:ふふ、そう言うと思ってました。だから、怖くないです。……(小声)それに、昔から貴女の事を知っていますから。

014 魔女:え?何?もう1回言って?

015 旅人:ふふ、なんでもないです。ところで、貴女のお名前をお伺いしても?

016 魔女:名前か……ディアーナ……だった気がする。忘れちゃった。

017 旅人:じゃあディーナ、と呼んでも?

018 魔女:うん、いいよ。……でも名前なんて聞いてどうするの?

019 旅人:今後も会いたいなと思う相手の名前を聞くのは当然でしょう?

020 魔女:ふーん、変な人。

021 旅人:そうですか?

022 魔女:うん、かなり。まずこの森に入ってくる時点で変な人だし、それに加えて私に話しかけてきた。今までそんな人は居なかったわよ?

023 旅人:それは言い過ぎじゃ……。

024 魔女:ううん、言い過ぎじゃない。……はぁ。人と話すの久しぶりで、貴方と話してたら疲れちゃった。お茶でも……ねぇ、何でそんなキラキラした目で私を見てるの?

025 旅人:私、いいお菓子持ってるんですよ……よかったら一緒に食べませんか?

026 魔女:……出会ってすぐこんなベタベタしてくる人久しぶりだよ。まったく、仕方ないなぁ。ほら。行くよ。

027 旅人:はいっ。……やっぱり森の魔女様は優しいんですね。

028 魔女:……森の魔女って呼び方辞めて。好きじゃないの。

029 旅人:それは失礼。……あの、ところで……久しぶりって事は前にも誰か?

030 魔女:うん。もう何年も前かな。1人ね、いたの。この森に来た人が。もう……顔も声も忘れちゃったんだけどね。覚えてるのは名前だけ。

031 旅人:名前は覚えてるんですね……その名前は……!(※被せ)

032 魔女:(※被せ)はい。ついたよ。あそこのベンチに座って食べよ。

033 旅人:わぁ!すごい綺麗だ……こんな綺麗な景色見たことが無い……(小声)前にも増して一段と綺麗になってる……。

034 魔女:ねぇ!来ないの?早くー!

035 旅人:あ、はい!

036 旅人M:ベンチに座り、ディーナの入れた紅茶を飲み、俺が持っていたお菓子を食べ、俺達はぽつりぽつりと会話をしながらその時間を楽しんだ。このお茶会はディーナが育てたという見事なマリーゴールドの花達が夕陽に照らされるまで続いた。






037 魔女M:旅人が初めて私の元を訪れてから1ヶ月程経ったある日、また彼は私の元を訪ねてきた。かなりの傷を負って。


038 旅人:……ディーナ?いる?

039 魔女:あぁ、また貴方……どうしたの?その怪我!

040 旅人:ちょっとね……っ……。

041 魔女:とりあえずそこのベットに横になって!

042 旅人:でも、君のベット汚しちゃうよ……。

043 魔女:魔法でどうにでもなるから!ほら、早く!

044 旅人:わかった、わかったから。……痛っ……。

045 魔女:傷口拭くよ。少し痛いと思うけど我慢してね。

046 旅人:ディーナ、ちょっと……痛いっ……!

047 魔女:もう少しで終わるから、もうちょっと我慢して……よし、終わり!

048 旅人:(若干息が上がりながら)君、案外容赦ないんだね……。

049 魔女:手を止めたらどんどん処置が遅くなるから。……さ、 続きやるよ。

050 旅人:え、まだ何かするの……?

051 魔女:大丈夫、魔法は一瞬だから。


052 旅人M:ディーナはそう言うと魔法を唱え出した。たちまちディーナの周りはオレンジ色に光り出した。久しぶりに見るディーナの魔法に思わず見とれていた俺はその懐かしさに涙腺が緩んだ。


053 魔女:おーい。大丈夫?

054 旅人:あっ、ごめん、ぼうっとしてた。

055 魔女:少し寝てな?まだ全快じゃないだろうから。

056 旅人:うん。……あれ?なんか甘い匂いがする……。

057 魔女:さっき傷口に軟膏(なんこう)を塗ったんだけど、甘い香りのする花を混ぜてあるからその匂いじゃないかな。

058 旅人:そっか……この軟膏とか作った薬を街で売ったりはしないの?

059 魔女:……しない。みんな買わないもの。

060 旅人:みんな欲しがると思うよ?少なからず、俺は欲しいと思った。

061 魔女:私ね……人間が怖いの。みんな自分達と少し違うってだけで直ぐに敵扱いするじゃない。

062 旅人:そ、そんな事ないと思うよ?

063 魔女:……貴方に……貴方に何がわかるの!?人に生まれたのに、魔法が使える事が分かったら親に売られて、魔法学校に監禁されて、国に仕えて、要らなくなったら森に追いやられた私の気持ちがわかる!?

064 旅人:……。

065 魔女:分からないでしょう?貴方は私に無いものを持ってるもの。……まぁもう随分昔のことだしもう諦めてるの。前に貴方、私に聞いたわよね。何故ここにずっといるのか、前に来た人は誰なのか、って。

066 旅人:あ、あぁ。でもそれは言いたくないって……。

067 魔女:いいわ。教えてあげる。……私はね、この森と共に生きてるの。私の魂は森と同化してる……だから外には出られない。……闇の魔女が王様の命令で私に呪いをかけたの。ここから私を出さないように、って。……前に来た人は、貴方みたいに好奇心でこの森に入ってきた。何度も何度も私を訪ねてきたわ。でも、また旅に出ると言って消えたの。世界を一周するって言ってね。

068 旅人:ディーナはその人のことをどのくらい覚えてるの?

069 魔女:名前は確か……シルヴァ、だったかな……。私はもうそれしか覚えてない。

070 旅人:そっか……その人は、幸せ者だね。

071 魔女:幸せ……者?

072 旅人:そうだろ?だって、ずっと待ってる人がいるじゃないか。

073 魔女:もう声も顔も覚えてないんだよ?

074 旅人:名前を覚えていれば十分さ……あとはきっと、魔法が解決してくれるはずだから。……さ、俺はそろそろお暇しようかな。

075 魔女:そう……えっと……あんな話してごめんなさい。聞いてくれてありがとう。

076 旅人:大丈夫だよ、時には吐き出す事も大事、だろう?怪我、治してくれてありがとう。じゃあ……またね。

077 魔女:あ、うん。また……。

078 旅人:(小声)もう少し……もう少しだけ待っててくれ……ごめん……!


079 魔女M:それからというもの、旅人はしばらくの間来なかった。また一人。私はマリーゴールドの花を見ながら一人、お茶を飲む。……あの人を待ちながら。






080 旅人:ディーナ?……ディーナ!どこにいるんだ?!

081 魔女:ん……(欠伸)ふぁ……。

082 旅人:ここにいたのか。ごめん、起こした?

083 魔女:久しぶりね。もう来ないと思ってたのに。

084 旅人:ちょっと色々やらないといけないことがあって……ディーナ、また君の入れる紅茶が飲みたいんだがここでお茶会にしないかい?

085 魔女:貴方はそればっかり……まぁすることも無いし付き合ってあげる。ちょっと待ってて。


086 旅人M:ディーナがティーセットを取りに家に戻っている間、俺は気が気ではなかった。準備は整っていた、彼女を元に戻す準備が。……あとはディーナの思いだけ。


087 魔女:おまたせ。……どうしたの?そんな思い詰めた顔して。

088 旅人:ううん。なんでもないよ。ただ……ここの花畑は綺麗だなって。ここの花は……全部マリーゴールドだよね?ほかの花は植えないの?

089 魔女:植えない。この花は……私に似てるから。……昔はとても好かれた。なのにいつの間にかその座はほかの花に奪われてしまった。……私と違うのは、それでも綺麗って事かな……昔はなんて呼ばれてたか知ってる?マリーゴールドはね……。

090 旅人:太陽の花。ひまわりではなく、マリーゴールドが太陽の花と呼ばれていた。そうだろ?

091 魔女:なんで……?なんでそれを知っているの?

092 旅人:ふふ、本当に君は忘れてしまったんだね……それもそうか。あれから物凄く長い時間が流れているんだもんね。

093 魔女:え、なっ、何言ってるの?

094 旅人:ディーナ、その右耳のピアスの事、覚えてる?

095 魔女:ピアス……あれ、私こんなのしてた?

096 旅人:覚えていなくて当然だよ。そのピアスに使われている石、ジェットって言うんだけど、忘却の石なんだ。

097 魔女:えっと……つまり……?

098 旅人:君が色々覚えていないのはその石のせいって事。こっちにおいで。魔法を解いてあげるから。


099 魔女M:旅人が私のピアスを外して、石を砕いた。すると私の周りが光出し、その瞬間、私は全てを思い出した。……シルヴァという旅人の男がいた事。彼とこの森で長い年月を過ごした事。彼が旅を再開すると決意した事。それを私が引き留めた事。彼が寂しがる私を心配して記憶を封印する、忘れさせる事を選んだ事。そして……私が彼を愛していた事を。


100 旅人:改めまして、俺の名前はシルヴァ。……久しぶりだね、ディーナ。

101 魔女:シル……本当にシルなの……?

102 旅人:そうだよ。ものすごく長い時間待たせてしまったけど、ちゃんと戻ってきたよ。

103 魔女:私……貴方の事覚えてなかった……その、えっと……ごめんなさい……!

104 旅人:それは仕方ないよ。魔法がかかっていたんだから。それよりディーナ、こっちにおいで。……やっと触れられるんだ。目一杯、抱きしめさせてくれ。

105 魔女:うん!……シルの腕の中暖かい……。

106 旅人:さて、ディーナ。君とした約束を果たそうか。耳を貸して?……愛してるよ、ディーナ。
 
107 魔女:えっ、シル……その約束覚えてたの?

108 旅人:覚えてたさ!大切な君との約束だよ?忘れるはずがないだろ。

109 魔女:本当……シルって物好きね。

110 旅人:物好きはどっちだ〜?帰ってくるかもわからない男をずっと待ち続けたディーナ、お前も十分物好きだと思うぞ?

111 魔女:物好きで結構よ。

112 旅人:まぁそう怒るな。あ、そうだ、俺が壊したピアス、の代わりと言っちゃなんだけど……これ。君にプレゼント。

113 魔女:わぁ!綺麗!……これはなんて石なの?

114 旅人:これはダイヤモンド。至宝の輝き、とか、不屈、って意味があるんだ。

115 魔女:なるほど……でもなんでこの石?

116 旅人:えーっと……何があっても諦めずにここまでやってきた君にぴったりかなって。

117 魔女:ふーん、なるほど……ありがとう!ねぇシル?……私も、大好き!


118 旅人M:その日、俺は初めてディーナを腕に抱いたまま眠りについた。こんな日がこれからも続くと思うと俺は幸せでいっぱいだった。……ディーナがダイヤモンドの別の意味を知るのはもう少し先の話。


(終)

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