【男3:女3】紫宝の涙

男3:女3/時間目安70分


【題名】
紫宝の涙
(しほうのなみだ)


【登場人物】
レオナルド:心優しい少年。
ヘレスティア:魔女ジエルの生まれ変わりと言われる。シルヴィーナとヴィクトールの母。
シルヴィーナ:臆病な王女。王位継承権を持たない。
ヴィクトール:聡明な王子。王位継承権第一位。
ルーラック:極度の女嫌い。ローディス公爵家当主。レオナルドの父。
ラシリア:レオナルドの侍女。


(以下をコピーしてお使い下さい)

『紫宝の涙』作者:なる
https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/38221166
レオナルド(男):
ヘレスティア(女):
シルヴィーナ(女):
ヴィクトール(男):
ルーラック(男):
ラシリア(女):



-------- ✽ --------





001レオナルドM:僕が初めて見た女の子は、首に鎖を付けて泣いていた。


(間)


002ルーラック:レニー。これは今日からお前のものだ。

003レオナルド:お父様この子は……?

004ルーラック:ラルムだ。こいつらはな、昔この国に伝染病を流行らせた魔女ジエルの血を継ぐ汚らわしい女なんだよ。……(後ろに控える護衛に向かって)おい、鞭を。

005レオナルド:父上……?なにを……?

006ルーラック:こうしてな!

<ルーラックが鞭を振るう>

007ルーラック:(笑いながら)ほら、レニー見ろ。

008レオナルドM:鞭を振るわれながら声を抑えるその子の目からは……何か光るものが流れていた。

009ルーラック:涙が宝石に変わる……ふふ……あはは!ホント、化け物だよな。

010レオナルド:そんな言い方は……!

011ルーラック:こいつらは物なんだ、レニー。ラルムが作り出す宝石は一級品でな……宝石にも薬にも武器にもなる。

012レオナルド:物って……でもこの子はまだこんなに小さいんですよ?

013ルーラック:関係ないさ。ラルムは生まれたこと自体が罪。生まれた瞬間から私達人間の助けをするのが義務。それに……物に感情はないだろう?

014レオナルド:そんな……あまりに酷ではありませんか。

015ルーラック:それがこいつらの生き方だ。

016レオナルド:しかし……!

017ルーラック:いいか、レオナルド。奴隷やラルムを使わない貴族はいない。しっかり物を扱える事が貴族の証でもあるからだ。わかったか?

018レオナルド:……っ……はい。父上。

019ルーラック:分かればいい。……ほら、もっと泣け!ほら!ほら!あはは!

020レオナルドM:『本当に、ラルムは皆が言うような化け物なのか。』この疑念は、貴族である以上抱いてはいけない。そう悟った僕はこの思いに鍵をかけた。再び鍵を開けることになったのは3年後の事だった。






【3年後】


021ラシリア:レニー様、お時間です。

022レオナルド:うん、ありがとう、ラシリア。

023ラシリア:胸を張って、行ってらっしゃいませ。

024レオナルド:任せて。氷の侍女ラシリアの授業をこなしたんだから、そこら辺の男には負けないさ。

025ラシリア:よく分からない単語が聞こえた気がしましたが今日のところは見逃して差し上げましょう。ほら、下で旦那様がお待ちですから、お急ぎ下さい。

026レオナルド:行ってくる。

027ラシリア:行ってらっしゃいませ。


(間)


028ルーラック:今日の目的は覚えているな、レニー。

029レオナルド:はい、父上。今日のパーティは王妃様が主催で第一王子であるヴィクトール様のお披露目も兼ねている、でしたね。

030ルーラック:あぁ。そしてお前の正式なお披露目の場でもある。

031レオナルド:私なんておまけですから。主役はヴィクトール様です。それに、他にも社交界デビューの人はいるでしょうし。

032ルーラック:お前を狙うご令嬢も沢山参加するそうだからな。お前に見合う令嬢が居ないかちゃんと見極めるんだぞ。

033レオナルド:……はい、父上。


(間)


034ヘレスティア:元気にしていたかしら、ローディス公爵。

035ルーラック:これはこれは王妃様。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。

036ヘレスティア:このパーティは貴方の息子も主役の一人。そんなに畏まらなくて良いわ。

037ルーラック:有り難きお言葉。

038ヘレスティア:名前は?

039ルーラック:紹介が遅れました、こちらは息子の……(※被せ)

040ヘレスティア:(※被せ・遮る)私は彼に聞いているの。貴方には聞いてないわ。

041ルーラック:……それは失礼致しました。

042ヘレスティア:で、貴方、名前は?

043レオナルド:レオナルドと申します。

044ヘレスティア:レオナルド……いい名前ね。

045レオナルド:ありがとうございます。

046ヘレスティア:……ふふ、貴方可愛い目をしてるわね。

047レオナルド:わ、私ですか?

048ヘレスティア:えぇ。穢れのない綺麗な目だわ。

049レオナルド:お褒め頂き光栄です。しかし、王妃様の方が綺麗な目をお持ちかと。

050ヘレスティア:……そう?……ローディス公爵、少しご子息を貸してくれるかしら。彼とふたりで話がしたいわ。

051ルーラック:ええ、どうぞどうぞ。私はこれで失礼致します。

052ヘレスティア:レオナルド、こちらへ。

053レオナルド:はい。

<ヘレスティアとレオナルドが別室へ>

054ヘレスティア:そこに座って頂戴。……ローディス次期公爵。この場の事は他言無用とし、思ったことを素直に言いなさい。いいわね?

055レオナルド:王妃様の仰せのままに。

056ヘレスティア:いいわ。私回りくどいことが嫌いなの。単刀直入に聞くわね、ラルムについてどう思っているのかしら。

057レオナルド:ラルム、ですか。

058ヘレスティア:ええ。ここには私と貴方しかいないわ。思った事を素直に言いなさい。

059レオナルド:ラルムは……私達の生活を豊かにしてくれる存在です。奴隷以下という身分はあまりにも低すぎるかと……思います。

060ヘレスティア:……そう。……他には?

061レオナルド:え、っと。

062ヘレスティア:(ため息)……貴方の事ばかり問い詰めるのはフェアじゃないわね。……私はね、貴方が言った事が嘘か本当か視ることが出来るの。青い目は真実を見抜くって聞いたことない?

063レオナルド:聞いた事はありますが……比喩的なものかと。その……王妃様は魔女、なんですか?

064ヘレスティア:あはは!この世に魔女なんてもう存在しないわ。でも魔女の血を引くものはいるわね。ね?

065レオナルド:……まさか。

066ヘレスティア:そのまさかよ。ふふ。いい顔をするわね。

067レオナルド:王妃様は……どんな宝石を?

068ヘレスティア:なんだと思う?

069レオナルド:サファイア……ですか?

070ヘレスティア:いい線ね。……正解はスピネル。私の眼は光の当たり方で色が変わるのよ。

071レオナルド:……美しい、です。

072ヘレスティア:さて、私の秘密は話したけれど……貴方の秘密は教えてはくれないの?

073レオナルド:あっ……わた、しは……その……同じ人間をものの様に扱う貴族が嫌いです。しかし、周りの人達はそれが当たり前のように暮らしている。……この思いも、父以外に打ち明けたのは初めてです。

074ヘレスティア:そう……。

075レオナルド:王妃様はこんな私を異端だと、可笑しいと思われますか?

076ヘレスティア:思わないわ。……貴方は嘘をついていない。素直な心を否定するなどそれこそ人間のする事ではないわ。……レオナルド・ローディス。

077レオナルド:はい。

078ヘレスティア:その優しい心をどうか持ち続けて頂戴。貴方は間違ってないわ。ずっと言えずに苦しかったでしょう。よく穢れずに育ってくれたわ。貴方は立派よ。

079レオナルド:そ、そんな。王妃様からお褒め頂けるなんて。……とても嬉しいです。

080ヘレスティア:私も貴方と話せて嬉しかったわ。ありがとう。お互いこの事は秘密に……ね。

081レオナルド:はい、王妃様の仰せのままに。

082ヘレスティア:さぁ、もう下がっていいわ。長く話し込んでしまったわね。この後もパーティを楽しんで頂戴。

083レオナルド:はい。失礼致します。


(間)


084ルーラック:あぁ、レオナルド。いい所に戻ってきたな。

085レオナルド:すみません、お待たせ致しました。

086ヴィクトール:ヴィクトールだ。よろしく、ローディス次期公爵。

087レオナルド:レオナルドと申します。気軽にレオナルドとお呼びください。

088ヴィクトール:そうか、ではよろしくな、レオナルド。

089レオナルド:はい、よろしくお願い致します。

090ヴィクトール:レオナルドはアカデミーには通うのか?

091レオナルド:はい、その予定です。ヴィクトール様と同じ学年かと。

092ヴィクトール:そうか。それはよかった。友人は一人でも多い方がいいからな。

093レオナルド:ヴィクトール様から友人と言って頂けるとは、有り難き幸せ。

094ヴィクトール:同じ歳の者に畏まられるのは歯痒いから辞めてくれ。

095レオナルド:いえ、そういう訳には。

<騎士がレオナルドに話しかける>

096ヴィクトール:(騎士に向かって)なんだ?……分かった。直ぐに向かう。すまない、レオナルド。母上に呼ばれたからこの辺で失礼するよ。また改めて城に招待させてくれ。その時にゆっくり話そう。

<ヴィクトールが立ち去る>

097レオナルド:はい、お待ちしております。……父上、少し風にあたって参ります。






【王城裏・庭園】


098シルヴィーナ:あの……。

099レオナルド:あっ、先客がいらっしゃるとは思わず。失礼しました。

100シルヴィーナ:あ、お気になさらず!……えっと、その……。

101レオナルド:はい?

102シルヴィーナ:良ければ少し話し相手になっては下さいませんか?……その、貴方様が宜しければ、ですけれど。

103レオナルド:はい、是非。

104シルヴィーナ:本当ですか!……えっと、

105レオナルド:申し遅れました。レオナルド・ローディスと申します。気軽にレオナルドとお呼びください。

106シルヴィーナ:レオナルド様……素敵なお名前。

107レオナルド:お嬢様のお名前をお聞きしても?

108シルヴィーナ:あ、えっと……シルヴィと、お呼びくださいませ。

109レオナルド:シルヴィ……美しい貴女にはぴったりの名前ですね。

110シルヴィーナ:そ、そんな。私は。月の女神様のお名前をお借りしているだけですから。

111レオナルド:よければこちらを。まだ夜は冷えますから。

112シルヴィーナ:……ありがとう、ございます。レオナルド様は寒くは無いのですか?

113レオナルド:私より貴女の方が寒そうな格好をなされていますよ、シルヴィ様?

114シルヴィーナ:すみません……。

115レオナルド:それに、ここでマントを返されたら私の面子は丸つぶれ。もう社交界には顔を出せないかも……。

116シルヴィーナ:そ、それはいけません!

117レオナルド:私を助けると思って、ここはひとつ、使っては下さいませんか?

118シルヴィーナ:ふふ、ではお言葉に甘えて。

119レオナルド:ところで、こんな所に護衛もつけずにいらっしゃるのは、王宮内とは言えど、危ないですよ。

120シルヴィーナ:そうですか?

121レオナルド:私のようにここに迷い込む男もいるかもしれません。

122シルヴィーナ:でもレオナルド様は危なくないですわ。

123レオナルド:例えばの話をしているのです。私が貴方を襲うような狼だったらどうするのです。

124シルヴィーナ:ふふ、レオナルド様はおかしな事を仰るのね。ここに狼はいないわ。

125レオナルド:例えばの話ですよ。……それで、どうしてこんな所に?

126シルヴィーナ:久しぶりにお外に出れたもので……お散歩を。レオナルド様は?

127レオナルド:私は少し外の空気を吸いに。……お散歩です。

128シルヴィーナ:ふふ、一緒ですね。

129レオナルド:そうですね。

130シルヴィーナ:レオナルド様は私の事が怖くないのですか?

131レオナルド:これはまた不思議な質問を。……美しいご令嬢に対して怖いなど、そんな事を思う男はおりませんよ。

132シルヴィーナ:そう、ですか。……ふふ。ありがとうございます。

133ルーラック:レオナルド!いないのかレオナルド!

134レオナルド:あっ……すみません、父が私を探しているようですので私はこの辺で。

135シルヴィーナ:お引き留めして申し訳ありませんでした……。

136レオナルド:そんなそんな。お話出来て良かったです。また会いましょう。

137シルヴィーナ:はい!……また。

<レオナルドが立ち去る>

138シルヴィーナ:ふふ……また、なんて、ね。






<ヘレスティアがシルヴィーナの部屋の扉を開けながら>

139ヘレスティア:シルヴィ?

140シルヴィーナ:んん……お母様?

141ヘレスティア:もう寝ていたかしら?

142シルヴィーナ:いいえ、まだ起きておりました。

143ヘレスティア:そう。……今日は少しでも楽しめたかしら?

144シルヴィーナ:はい、お母様。とても、楽しかったです。

145ヘレスティア:あら……このマントはどうしたの?

146シルヴィーナ:あっ、その、申し訳ありません……。

147ヘレスティア:……シルヴィ?

148シルヴィーナ:お父様の言いつけを破ってお部屋から出てしまいました……。私はお部屋に居ないといけないのに……。

149ヘレスティア:いいのよ、シルヴィ。……ごめんね、私が不甲斐ないばかりに、貴女に寂しい思いをさせてしまっているわね。

150シルヴィーナ:そんな事はありません!私はお母様と同じこの目をとても誇らしく思っております。

151ヘレスティア:もう少し待っててね、シルヴィ。貴女を第一王女としてお披露目する日を必ず設けるから。

152シルヴィーナ:ありがとうございます、お母様。

153ヘレスティア:忘れていたわ、このマントの持ち主はどなた?

154シルヴィーナ:えっと……心優しい公爵様です。

155ヘレスティア:……そう。

156シルヴィーナ:あっ……で、でも、その方は私の事はご存知ないようでしたし、どうかお咎めは私一人にして下さいませ。

157ヘレスティア:大丈夫よ。この事は私と貴女の秘密にしましょう。

158シルヴィーナ:はいっ!

159ヘレスティア:ところで、どんな話をしたの?

160シルヴィーナ:名前を……美しいと言ってくださいました。

161ヘレスティア:ふふ……よかったわね。

162シルヴィーナ:とてもお優しい方でした。

163ヘレスティア:また会いたい?

164シルヴィーナ:……いえ。十分楽しい時間を過ごさせて頂きましたから。これ以上わがままを言ってはバチが当たってしまいます。

165ヘレスティア:シルヴィ……。

166シルヴィーナ:このマントはどなたかにお願いして返してもらいますから。その……

167ヘレスティア:ふふ。

168シルヴィーナ:お母様?

169ヘレスティア:ねぇ、シルヴィ。お母様いいこと思いついちゃったわ。

170シルヴィーナ:……へ?






【レオナルド私室】


171ラシリア:本日はいかがでしたか?

172レオナルド:とても有意義な時間だったよ。王妃様と第一王子にご挨拶をしたんだ。ヴィクトール様とは近いうちにまたお会い出来そうだし。

173ラシリア:そうですか。それはよかったですね。ヴィクトール様とレニー様は歳が近いですし。仲良くしておいて悪いことはないかと。

174レオナルド:ラシリア、ヴィクトール様は他の人たちとは違って王族だ。口には気をつけなさい。

175ラシリア:それは大変失礼致しました。

176レオナルド:まぁ僕とふたりだ。別にいい。

177ラシリア:はい。……あら、レニー様。ところでマントはどちらに?

178レオナルド:あぁ……なぁ、ラシリア。

179ラシリア:はい。

180レオナルド:シルヴィという名の銀髪のご令嬢を知っているか?

181ラシリア:女神様のお名前を持つご令嬢は大勢いらっしゃいますから。その上銀の髪となると……軽く10名はいらっしゃるかと。……しかし、その女性がどうかしたのですか?

182レオナルド:マントはその彼女が持っている。

183ラシリア:推測するに……寒そうなシルヴィ様というご令嬢の肩にマントをかけて差し上げた、というところですか?

184レオナルド:おぉ、流石ラシリア。

185ラシリア:有り難きお言葉。……ところでそのご令嬢についてもう少し情報は無いのですか?

186レオナルド:あとは……瞳が紫色に見えた。

187ラシリア:紫、ですか。

188レオナルド:光の加減はあるだろうがたぶん……紫色だったと思う。

189ラシリア:なるほど……それなら御一人思いつく方がいらっしゃいますが……

190レオナルド:それは……?

191ラシリア:いや、ですが……。

192レオナルド:教えてくれ、ラシリア。

193ラシリア:その方は……ヴィクトール様の妹君であるシルヴィーナ様です。

194レオナルド:シルヴィーナ様?……王家の跡取りはヴィクトール様おひとりでは?……王女様の名前を聞いたことがないなんて……そんなこと……。

195ラシリア:レニー様がご存知ないのも仕方がないかと。その、……シルヴィーナ様は既に亡くなられてます。

196レオナルド:……は?

197ラシリア:ご年齢はレニー様の2つ下ですが、私の記憶が正しければ冬の儀を迎える前に亡くなられているはずです。

198レオナルド:そんな……じゃあ俺が時間を共にしたシルヴィは一体……

199ラシリア:もう夜も深けて参りましたし、あれこれ考えるのは明日にして、今日のところはお休みになられてはいかがですか?

200レオナルド:ああ、そうするよ。

201ラシリア:では準備をしてまいりますので少々お待ち下さいませ。


(ほんの少し間)


202レオナルド:シルヴィ様……君はどこにいるんだ……?






【王城・応接間】


203ヴィクトール:おい、レオナルド。聞いてるか?

204レオナルド:え?

205ヴィクトール:ったく、大丈夫か?今日はなんだか上の空って感じだな。

206レオナルド:申し訳ありません。

207ヴィクトール:何かあったのか?

208レオナルド:少々頭を悩ませると言いますか……いくら考えても納得のいかない事がありまして。

209ヴィクトール:大丈夫か?

210レオナルド:はい。殿下のお手を煩わせるような事ではありませんので。

211ヴィクトール:まぁそう言わずに、ほら、このヴィクトールが話を聞くぞ。

212レオナルド:……殿下は、仮面舞踏会に参加された事がございますか?

213ヴィクトール:そうだな、一度だけ。

214レオナルド:仮面舞踏会は、どこの誰かも分からない方々が同じ場所に集まり、全てを隠してその時間を楽しむ。そういうものです。しかし、その場で素敵なご令嬢に出会ったとします。殿下ならどうなさいますか?

215ヴィクトール:何がなんでも探し出す、な。

216レオナルド:見つけたご令嬢が、世の中では既に亡くなっている事になっているとしたら、どうします?

217ヴィクトール:……は?そんなことあるわけないだろう。

218レオナルド:今殿下が思われている思いと、同じ気持ちを味わっています。

219ヴィクトール:……複雑だな。

220レオナルド:そうですね。

221ヴィクトール:よし、茶でも飲みながら話すとしよう。少し待っていてくれ。

222レオナルド:そう言えば侍女達がいらっしゃらないようですが?

223ヴィクトール:お前と二人で話がしたくてな。下がらせた。少し待っていてくれ。

224レオナルド:私が呼んでまいります。殿下はこちらでお待ち下さい。

225ヴィクトール:いや、もう一つ別で頼みたい事もあるから、私が行く。気にするな。

226レオナルド:かしこまりました。


(間)


227シルヴィーナ:あれ、お兄様?

228ヴィクトール:……シルヴィーナ。

229シルヴィーナ:こんな所でどうなさったのですか?

230ヴィクトール:侍女を探していてな。

231シルヴィーナ:そうだったのですね。どなたかいらっしゃっているのですか?

232ヴィクトール:あぁ。

233シルヴィーナ:そうなのですね。……え、っと。

234ヴィクトール:……こんなところにいないで早く部屋に戻りなさい。

235シルヴィーナ:も、申し訳ございません。

<シルヴィーナが部屋に戻る>

236ヴィクトール:……くそっ。


(間)


237レオナルド:殿下。……大丈夫ですか?顔色が優れないようですが。

238ヴィクトール:あぁ。大丈夫だ。

239レオナルド:私でよければ話聞きますよ。

240ヴィクトール:これは友人の話なんだが。

241レオナルド:はい?

242ヴィクトール:そいつには妹がいてな。その妹君にどう接したらいいか分からないらしいんだ。……お前ならどうアドバイスする?

243レオナルド:私には兄弟がおりませんので憶測になってしまいますが、しっかり話してみることが一番の近道なのでは無いかと思います。

244ヴィクトール:話してみること、か。

245レオナルド:言葉が通じる相手なら、話す前からあれこれ考えるのは得策ではないかと。考えれば考えるほど、そういう事柄は複雑になりがちですから。

246ヴィクトール:なるほどな……。お前はすごいな、レニー。

247レオナルド:いえ、あくまで想像と、私の考えを述べたまでですので。若輩者の意見と思って頂ければ。

248ヴィクトール:ありがとう。そう、友には伝えておく。






【四族会議】


249ヘレスティア:さて、次の議題だが、ラルムの扱いについての法改正案が出ている。それについてなにか意見がある者は?

250ルーラック:発言しても?

251ヘレスティア:ローディス公爵、発言を許可する。

252ルーラック:私は法改正には反対です。ほとんどの貴族がラルムを所持する今、法改正をすれば混乱を招くのは分かりきっております。その混乱は国民に及ぶのは間違いありません。あまり得策ではないかと。

253ヘレスティア:しかし……ラルムも人間であることに変わりはないだろう。その点はどう思う?

254ルーラック:ラルムは魔女です。汚らわしい。……あぁ、これは失礼。魔女ジエルの生まれ変わりと噂される王妃様には酷な話でしたかね。

255ヘレスティア:ローディス公爵。それは私への侮辱と受け取っていいか?

256ルーラック:いえいえそんな。……しかし、魔女は人間ではありません。そこはお忘れにならないで頂きたい。

257ヘレスティア:ほう……そなたは私を人間ではないと言うのだな。

258ルーラック:噂は噂、ですから。それに……。

259ヘレスティア:なんだ。はっきりと言いなさい。

260ルーラック:ラルムの子供はラルムが生まれる確率が高いですから。

261ヘレスティア:何が言いたい。

262ルーラック:いえ、何も。

263ヘレスティア:はっきり言わないか!

264ルーラック:では……確か第一王女様はラルムだったと記憶しておりますが。名前は……

265ヘレスティア:その汚い口で私の娘の名を呼ぶな。

266ルーラック:……失礼致しました。

267ヘレスティア:ヴィクトールはラルムでは無い。それに、ラルムだからと言って何かが欠けているという訳ではない。

268ルーラック:ラルムの能力は関係ございません。その血が問題なのです。

269ヘレスティア:それで?

270ルーラック:美しい貴族の血が流れる第二王子でもいたらいいのですが……。

271ヘレスティア:存在しない第二王子を立てろと?

272ルーラック:えぇ。まぁ少なくとも第二王子の母は貴方ではないでしょうがね。

273ヘレスティア:……は?

274ルーラック:一国の王たるもの、王妃が二人や三人いてもおかしくはありませんから。

275ヘレスティア:……そうか。そうかそうか。ローディス公爵はこの国の王である我が夫に、妾をとるような外道になり下がれと?

276ルーラック:そう思うのは女だけです。それにどの家の令嬢も、皆家の為に犠牲になる事を仕方の無い事と割り切っておりますよ。……まぁこれは貴族の話であって、平民は別でしょうけどね?

277ヘレスティア:貴様!私を侮辱するのも大概にしろ!

278ルーラック:私はそのような事は何も。王妃様のことを語るなど恐れ多い事です。

279ヘレスティア:ふっ。どの口が。貴族主義の狸め。

280ルーラック:『ラルムは貴族の所有物であり物である』というのは私一人ではなく、この国の貴族の共通認識かと思われます。ラルムが王位継承など有り得ません。

281ヘレスティア:……好きにするといい。陛下がお許しになればそれはそれ。私がこれ以上言うことは無い。

282ルーラック:それでは文書にまとめて後日陛下に進言致します。

283ヘレスティア:この話はここまで。他になにか話すことはあるか?






<ルーラックが帰宅>

284ルーラック:クソ!

285レオナルド:父上。

286ルーラック:あ?……あぁ、レニーか。どうした。

287レオナルド:いつもより早いお戻りだなと思いまして。

288ルーラック:あぁ。そうだな。

289レオナルド:……四族会議で何か?

290ルーラック:あの女狐だよ、また好き勝手しやがって。

291レオナルド:父上、誰かに聞かれたらどうするのです。不敬罪に当たります。

292ルーラック:うるさい!お前は何か無いのか?女狐の弱みとなるような話は!

293レオナルド:ございません。

294ルーラック:(舌打ち)まったく、役に立たない。

295ラシリア:失礼致します。

296ルーラック:なんだ。

297ラシリア:王妃様からレオナルド様にお手紙が届いております。

298ルーラック:王妃だと?寄越せ!

<ルーラックが手紙を奪い取り封を開ける>

299ルーラック:(不敵な笑い)……よくやったぞ!レニー!

300レオナルド:王妃様はなんと?

301ルーラック:お前にお茶会の誘いだ。私用で呼び出すなんて何かあるに違いない。絶対に何か掴んでやるからな……。

302レオナルド:私はこれで失礼します。行こう、ラシリア。

303ラシリア:はい。レオナルド様。


(間)


304レオナルド:……ふぅ。

305ラシリア:レニー様?どうかなされましたか?

306レオナルド:いや、父上の王妃様嫌いは如何なものかとね。

307ラシリア:と、いいますと?

308レオナルド:ヴィクトールから言われたのさ、王妃様と父上がよく口論をしているってね。

309ラシリア:それは……レニー様は居心地が悪いですね。

310レオナルド:ヴィクトールとは仲良い友人でありたいからなぁ……もう少し弁えてくれないものか。

311ラシリア:ご主人様は極度のラルム嫌いで有名ですからね。

312レオナルド:王妃様はとても立派で素敵なお方だというのに。父上はどうして……。

313ラシリア:ローディス家は四大貴族として国に貢献して参りましたが、それと同時に貴族主義の頂点でもあります。その手前、ラルムを受け入れられないというのもあるのかもしれませんよ。

314レオナルド:そうだといいんだが……ラシリアがうちに来る前、父上が地下室を見せてくれた事があったんだ。そこで見た父上を考えると……とてもまだ人の心があるとは思えないんだ。

315ラシリア:ひとつお聞きしてもよろしいですか?

316レオナルド:あぁ。

317ラシリア:レニー様のお気持ちはどこにあるのでしょうか?

318レオナルド:僕の気持ち?

319ラシリア:ローディス家の長男としてお父上と同じ道を辿るのか、それともレオナルド・ローディスとして自分の思うままに生きるのか。レニー様はどちらを選ばれますか?

320レオナルド:僕は……父上と同じようにはなりたくないと思う。ラルムは奴隷なんかじゃない。同じ人間だ。あのように……鞭を振るったりなどはしたくない。

321ラシリア:そうですか。お心の優しいレニー様がご健在のようでなによりです。

322レオナルド:なんだそれ。

323ラシリア:私は人に鞭を振るような方に教育した覚えはございませんので。

324レオナルド:ラシリアの授業は……思い出したくもないな。

325ラシリア:何かお忘れの事がございましたらいつでも仰って下さいませ。みっちり教えて差し上げますので。

326レオナルド:ありがとう、覚えておくよ。

327ラシリア:本日はもうおやすみになりますか?

328レオナルド:あぁ、そうするよ。

329ラシリア:かしこまりました。ご用意致します。

330レオナルド:あぁ、そうだ。王妃様のお茶会に侍女を連れてくるようにとの事だから。ラシリア、一緒に来てくれるか?

331ラシリア:レニー様のご指名とあらば。






<ヴィクトールが急ぎ足で食堂に入ってくる>

332ヴィクトール:遅くなりまし、た。

333ヘレスティア:遅かったわね。早く座りなさい。(控えている侍女に向かって)ヴィクトールの分も用意して。

334シルヴィーナ:お久しぶりです、お兄様。

335ヴィクトール:母上、その、どうしてシルヴィーナがここに?

336ヘレスティア:家族で食卓を囲むのの何が悪いのかしら。

337ヴィクトール:しかし!

338ヘレスティア:早く座りなさいな。置けなくて困っているでしょう。

339ヴィクトール:あっ、申し訳ない。

340ヘレスティア:ありがとう。全員下がっていいわ。

<執事・侍女全員が退室したのを確認して>

341シルヴィーナ:お母様、やはり私は……。

342ヴィクトール:母上、何故急にこのような席を設けられたのかお伺いしても宜しいですか?

343ヘレスティア:さっきからそればっかりね。他に言うことは無いの?

344ヴィクトール:次の話題に進むためにお答え下さい。

345ヘレスティア:シルヴィがこの場にいる事がそんなにもおかしい事?

346ヴィクトール:シルヴィーナは世間に隠された存在です。ここでは誰が姿を目撃するか分かりません。

347ヘレスティア:別に見られたって問題ないわ。今度正式に発表することになっているのだから。

348ヴィクトール:それは……つまり王家の一員として発表すると?

349ヘレスティア:ええ。私達の娘なんだから、当たり前でしょう。

350ヴィクトール:何故急にそんな事に?

351ヘレスティア:シルヴィの婚約を打診するつもりだからよ。

352ヴィクトール:シルヴィーナが、婚約?

353ヘレスティア:えぇ。貴方もシルヴィと同じ歳の頃にフィオナ嬢と婚約したでしょう?

354ヴィクトール:そうですが!……その、相手は?

355ヘレスティア:貴方のよく知る人よ。

356ヴィクトール:シルヴィーナに釣り合いそうな人なんて誰も……。

357ヘレスティア:いるじゃないの、1人。貴族としての気品と、弱き者を気遣える優しさ、そして物事を的確に見抜く聡明さを持ち合わせる人が。

358ヴィクトール:まさか……レオナルドですか?

359ヘレスティア:ふふ。そのまさかよ。いい考えだとは思わない?

360ヴィクトール:レオナルドはとても良い奴ですが彼の父は!

361ヘレスティア:分かっているわ。でも、ローディス公爵と彼は違うわ。

362ヴィクトール:公爵がレオナルドを使ってシルヴィーナに危害を加えないと言いきれませんよ。

363ヘレスティア:それも分かってる。それについては色々と考えているわ。恐らく婚約の打診をしてもつき返されるでしょうしね。まずは近いうちに彼の思いを聞こうと思っているの。

364ヴィクトール:レオナルドはシルヴィーナの事をご存知で?

365シルヴィーナ:レオナルド様は私が王家の者だとはご存知でないと思います。でも……先日、一度だけお会いしまして。

366ヴィクトール:シルヴィーナ。お前はそれでいいのか?本当にレオナルドで。

367シルヴィーナ:レオナルド様は……私を美しいと、怖くないと言って下さいました。レオナルド様さえ良ければ、その。

368ヴィクトール:そう、か。

369ヘレスティア:ヴィクトール。貴方は反対?

370ヴィクトール:いえ。レオナルドは母上のお考えの通り、きっとシルヴィを大切にしてくれるでしょう。 

371ヘレスティア:良かったわね、シルヴィ。兄からのお墨付きだそうよ。

372シルヴィーナ:はい。

373ヘレスティア:じゃあ今度彼が来る時の作戦会議をしなくちゃね。






【数日後】


374ルーラック:ユスティアの月にご挨拶を申し上げます。

375ヘレスティア:よく来たわね。ローディス公爵、レオナルド。

376レオナルド:本日はご招待ありがとうございます。

377ヘレスティア:いいのよ。時間ももったいないし、さっそく行きましょうか。ラシリアも一緒にいらっしゃい。

378ヴィクトール:ローディス公爵。

379ルーラック:これは、ヴィクトール王太子。お久しぶりでございます。

380ヴィクトール:あぁ。公爵も元気そうで何よりだ。

381ルーラック:それで……私になにか御用ですか?

382ヴィクトール:少し商売の話がしたくてな。今から時間はあるか?

383ルーラック:勿論です。

384ヴィクトール:では我々はこちらへ。


(間)


<扉をノックする音>

385ヘレスティア:私よ。入るわね。

386レオナルド:王妃様、ここは?

387ヘレスティア:入ればわかるわ。

<中に入る>

388レオナルド:……君は……!

389ラシリア:……シルヴィーナ様?

390ヘレスティア:ふふ。2人とも、こちらは私の娘のシルヴィーナよ。……改めて紹介も要らないわね。

391レオナルド:まさか……王女様だったとは……。

392シルヴィーナ:お久しぶりです、レオナルド様。ラシリア。

393ラシリア:本当に……シルヴィーナ様でいらっしゃいますか?……その……。

394シルヴィーナ:えぇ。久しぶりですね、ラシリア。

395ラシリア:まさか、またお会いできるとは、思っていなくて、えっと。

396ヘレスティア:あの時の話も貴女にしなくてはいけないわね。

397シルヴィーナ:お母様。少し2人にしては頂けませんか?

398ヘレスティア:えぇ。分かったわ。ラシリア、向こうで話しましょうか。

399ラシリア:かしこまりました。

<ヘレスティアとラシリアが退室>

400シルヴィーナ:その……えっと……。

401レオナルド:シルヴィ様。

402シルヴィーナ:は、はい?!

403レオナルド:顔をよく見せて頂けませんか?

404シルヴィーナ:あの……は、恥ずかしいです……。

405レオナルド:やはり綺麗な方ですね。以前お会いした時はよく見えなかったものですから。

406シルヴィーナ:綺麗な方は沢山いらっしゃいます。私なんてそんな……。

407レオナルド:女神様を思わせるこの銀の髪も、この紫の瞳も、とてもお綺麗ですよ。

408シルヴィーナ:あ、ありがとうございます。……あの。

409レオナルド:はい。

410シルヴィーナ:レオナルド様は私の事が怖くは無いのですか?

411レオナルド:怖いわけがありません。

412シルヴィーナ:気持ち悪いとは思いませんか?

413レオナルド:全く。

414シルヴィーナ:その、

415レオナルド:シルヴィ様。これ以上自分を悪く言うのは私が許しませんよ。

416シルヴィーナ:でも。

417レオナルド:でも、じゃないです。

418シルヴィーナ:……私はラルムです。レオナルド様。

419レオナルド:王妃様もそうでいらっしゃいますね。

420シルヴィーナ:ラルムは貴族のために働くのが義務だと……そうみんな言います。

421レオナルド:ラルムは奴隷でも所有物でもないのです。ラルムは宝石眼を持つ者を指す言葉であったと本にはそう書いてありました。私もそう思っています。

422シルヴィーナ:そう、ですか。……(何かを決心して)あの!

423レオナルド:待ってください。そこから先は私に言わせて頂けませんか?

424シルヴィーナ:え?

425レオナルド:この先も貴方の横にいる名誉を私に頂けませんか?……私と結婚して下さい。

426シルヴィーナ:レオナルド様、私で本当によろしいのですか?

427レオナルド:もちろん。……これからはレニーとお呼びください。

428シルヴィーナ:で、ではもっと砕けた話し方でお願い致します。これでは少し……硬すぎると言いますか……。

429レオナルド:分かった。これでいいか?シルヴィ。

430シルヴィーナ:は、はい!

431レオナルド:シルヴィも。

432シルヴィーナ:よろしく……ね、レニー。


(間)


433ヘレスティア:久しぶりね、ラシリア。

434ラシリア:お久しぶりです。王妃様。

435ヘレスティア:王妃様なんて堅苦しいのは辞めてちょうだい。今まで通りでいいわ。

436ラシリア:かしこまりました。ヘレスティア様。

437ヘレスティア:元気にしていたの?

438ラシリア:王宮を追い出された後は伯爵家で働いていたのですが冤罪を着せられてそちらも追い出されまして。……路頭に迷って居たところをレオナルド様に拾って頂きました。

439ヘレスティア:そう。彼は見る目もあるのね。

440ラシリア:えぇ。彼は素晴らしい主人です。

441ヘレスティア:ふふ。そのようね。ラシリアが褒めるなら間違いないわね。

442ラシリア:ヘレスティア様はレオナルド様をシルヴィーナ様の婚約者に選ぶおつもりなのですか?

443ヘレスティア:彼にならシルヴィを任せられると思っているわ。

444ラシリア:レオナルド様をシルヴィーナ様の婚約者にするのは私も賛成です。しかし、レオナルド様のお父様は、その……。

445ヘレスティア:やっぱりそこよね。ローディス公爵はちょっとねぇ。

446ラシリア:公爵様はヘレスティア様が思っているよりはるかにずる賢く、且つ下劣な人間です。下手に動けばシルヴィーナ様にもレオナルド様にも危害を及ぼしかねません。

447ヘレスティア:……あんな人では無かったはずなんだけど。

448ラシリア:そうなのですか?

449ヘレスティア:えぇ。彼がラルムを迫害するようになったのはローディス公爵夫人が亡くなった後なのよ。昔は愛妻家で有名な優しい人だったんだけれど。

450ラシリア:今からは想像がつきませんね。

451ヘレスティア:夫人が殺された事件の犯人がラルムの男だったのよ。だから彼はラルムを酷く嫌っているの。理解もできるけれどやりすぎなのよ。

452ラシリア:……どうするおつもりですか?

453ヘレスティア:ローディス公爵には少し落ち着いてもらわないとね。……それに、彼にはとても優秀な息子がいるじゃない。だからローディス家は安泰よ。……貴女も手伝ってくれるかしら。

454ラシリア:ふふ……王妃様の仰せのままに。


(間)


455ルーラック:それで話というのは。

456ヴィクトール:ローディス家は宝石の取り扱いに長けていると聞いてな。

457ルーラック:えぇ。その通りです。私達が支援している商会では、この大陸一の品揃えと品質の高さを兼ね備えております。

458ヴィクトール:そうか。実はプレゼントを探していてな。

459ルーラック:どんなものをお探しで?

460ヴィクトール:紫色のアクセサリーを探している。

461ルーラック:ほう……紫ですか……。

462ヴィクトール:なにか用意できそうか?

463ルーラック:勿論でございます。王妃様がお持ちの宝石に負けないくらいの物をご用意致しますよ。

464ヴィクトール:……ふふ……あはは!(笑いを堪えるが堪えきれなくなる)

465ルーラック:なにかおかしなことでも?

466ヴィクトール:いやぁ、貴方が母上の事を毛嫌いしている事は知っていたがそこまでとは思わなくてな。いやぁ、すまない。

467ルーラック:いやぁ、毛嫌いなどはしておりませんよ。ただ少々意見の食い違いが起こるだけです。

468ヴィクトール:……そうか。

469ルーラック:えぇ。ですから……。

470ヴィクトール:公爵は母上がしているあの宝石の出処を知っているのか?

471ルーラック:いえ、そこまでは。

472ヴィクトール:あの宝石はな、母上の涙から生まれた宝石を父上が国の北端に住む一流の職人に依頼をして作ってもらった代物だ。

473ルーラック:道理で探しても見つからないわけだ。……あはははは!あれは魔女の遺物だったのですね。

474ヴィクトール:そして父上の耳飾りも、母上の宝石だったはずだからな。やはり相手の宝石を身につけるのは素敵なことだよなぁ。

475ルーラック:そう、ですね。ご自分の瞳や髪の色のドレスやアクセサリーをお相手に贈るご子息も多いですから。

476ヴィクトール:それで……私の希望に添える様なものは用意できそうか?

477ルーラック:そうですね……1つお聞きしてもよろしいですか?

478ヴィクトール:あぁ。なんだ?

479ルーラック:そのプレゼントをお渡しになるのはどのご令嬢なのでしょうか?

480ヴィクトール:いや、令嬢ではないぞ。

481ルーラック:えっと……?

482ヴィクトール:私の大切や友人夫妻が今度少し遠いところへ行くことになってな。旅立つ友へのプレゼントというところだ。

483ルーラック:そうでしたか。

484ヴィクトール:何かいいものを見繕ってくれ。

485ルーラック:かしこまりました。






486ラシリア:夕食になさいますか?

487レオナルド:いや、先に風呂に入ってからがいいかな。

488ラシリア:かしこまりました。……コートお預かり致します。

489レオナルド:あぁ。……ラシリアが王妃様と知り合いだったとは思わなかった。

490ラシリア:ここに来る前の話はした事がありませんでしたからね。

491レオナルド:平民にしては礼儀や作法が出来ているとは思っていたが、まさか王女様付きの侍女だったとは。

492ラシリア:元々は王妃様の侍女だったのです。少ししてシルヴィーナ様の侍女になるように王妃様から命じられました。

493レオナルド:私は先程お会いするまでシルヴィーナ様が王家の方だとは知らなかったが……何故存在を知られていないんだ?

494ラシリア:基本社交界に顔を出すようになるのは冬の儀を迎えてからというのがしきたりなのはレニー様もご存知ですね?

495レオナルド:あぁ。

496ラシリア:しかし、シルヴィーナ様は生まれた時から宝石眼をお持ちでした。そのため四族会議でシルヴィーナ様は亡くなったこととし、姿を隠すことになったそうなのです。

497レオナルド:そんな事が……?

498ラシリア:当時、シルヴィーナ様付きの侍女達も皆、突然お部屋に入る事を禁じられ、元いた場所に戻されました。少ししてからシルヴィーナ様が亡くなった事を伝えられたのです。

499レオナルド:そう、だったのか。

500ラシリア:なので、まさか生きてらっしゃるとは思っておりませんでした。

501レオナルド:知らない事など山ほどあるんだな。

502ラシリア:その頃レニー様はまだ冬の儀を終えたばかりでしたから。シルヴィーナ様にお会いした事も無かったかと思われます。

503レオナルド:あんなに美しい令嬢にお会いしたことがあったなら忘れるはずもないもんな。

504ラシリア:そうですね。

505レオナルド:……ラシリアは私がシルヴィーナ様と結婚する事についてどう思う。

506ラシリア:とても嬉しく思っています。大事なおふたりが結ばれるのはこの上ない幸せです。

507レオナルド:それなら良かった。シルヴィーナ様にお前は相応しくないと言われたらどうしようかと。

508ラシリア:そんな事はありません。レニー様はこの国一の令息です。このラシリアが保証しますよ。

509レオナルド:それは頼もしいな。

510ラシリア:しかし、旦那様の妨害は免れないでしょう。

511レオナルド:……だろうな。父上の事だからなにかしてくる事は覚悟しているよ。

512ラシリア:王妃様もレニー様の事を気にしている様子でした。

513レオナルド:きっとご迷惑をおかけする事になるだろうなぁ。

514ラシリア:もし何かございましたら私をお使い下さいませ。

515レオナルド:ラシリアは頼もしいな。

516ラシリア:レニー様とシルヴィ様の幸せを一番に願っておりますので。






517ヘレスティア:それで、どうだったの?

518シルヴィーナ:その……。

519ヘレスティア:何かあったのね?

520シルヴィーナ:……結婚しようと、言ってくださいました……。

521ヘレスティア:まぁ!良かったわね!

522シルヴィーナ:ありがとうございます……。

523ヘレスティア:ヴィクトール。なにか言うことは無いの?

524ヴィクトール:……おめでとうシルヴィーナ。

525シルヴィーナ:……ありがとうございます、お兄様。

526ヘレスティア:(ため息)あなた達、いつまでそうやって他人行儀のつもり?2人でちゃんと話してらっしゃい!仲良くなったら私の所まで来なさい、いいわね。


(間)


527ヴィクトール:はぁぁぁぁ。

528シルヴィーナ:その……。

529ヴィクトール:なんだ?

530シルヴィーナ:……すみません、私のせいで……。

531ヴィクトール:シルヴィーナのせいでは無いだろう。

532シルヴィーナ:はい……。

533ヴィクトール:シルヴィーナは私が怖いか?

534シルヴィーナ:いえ!……むしろお兄様が私の事がお嫌いなのかと……。

535ヴィクトール:そんな事はない!……すまない、大きな声を出して。

536シルヴィーナ:大丈夫です。……お話頂けますか?

537ヴィクトール:……父上からシルヴィーナを離宮に移動させるという話を聞いた時、忘れろと周りの大人には言われたんだ。

538シルヴィーナ:そうだったのですね。

539ヴィクトール:だから、その……すまなかった。

540シルヴィーナ:なぜお兄様が謝るのですか?

541ヴィクトール:周りの大人に言われたとは言えど、大事な妹を蔑ろにしてしまったのは私だ。今更謝って済む問題では無いのも重々承知している。

542シルヴィーナ:お兄様。

543ヴィクトール:何かあるなら言ってくれ。

544シルヴィーナ:また昔のように、シルヴィと呼んでは下さいませんか?

545ヴィクトール:え?

546シルヴィーナ:またシルヴィと呼んでくださいませ。前はそう呼んで下さっていたではありませんか。

547ヴィクトール:あ、あぁ。

548シルヴィーナ:それで終わりに致しましょう。……私、もっとお兄様と色々なお話がしたいです。

549ヴィクトール:あぁ。沢山、色々なことをしよう、シルヴィ。






550ラシリア:失礼致します。

551ルーラック:なんだ?

552ラシリア:王家よりお手紙が届いております。

553ルーラック:王家から?貸せ。

554ラシリア:こちらお使いください。

(ペーパーナイフを渡す)

555ルーラック:あぁ。……なんだこれは!

556レオナルド:お手紙には何と?

557ルーラック:お前が第一王女の婚約者に選ばれたと。……この話知っていたのか?

558レオナルド:はい。先日王宮に行った際に私から求婚致しました。

559ルーラック:……なぜ黙っていた。

560レオナルド:父上に反対されるのが分かっていたからです。

561ルーラック:許すはずがないだろう!奴隷と結婚なんて誰が許すか!

562レオナルド:婚約者は私が選びます!

563ルーラック:お前は私の息子だ。私が選ぶ令嬢と結婚すればいいのだ。奴隷の血が混ざるなんて……穢らわしい。

564レオナルド:私の婚約者はシルヴィーナです。

565ルーラック:その名を口にするな!もういい!こいつを地下牢に閉じ込めておけ!


(間)


<シルヴィーナが勢いよく扉を開ける>

566シルヴィーナ:お母様!レニー様は!?

567ヘレスティア:シルヴィーナ、落ち着いて。どうしたの?

568シルヴィーナ:レニー様に何かあったと聞いて、いても経っても居られず……!

569ヴィクトール:今地下牢に入れられているそうだ。

570シルヴィーナ:そんな……!……やはり私のせいですか?私と結婚する事になったからそんな……

571ヴィクトール:シルヴィ、お前のせいではない。公爵がおかしいんだ。

572シルヴィーナ:ですが、どうするのですか?

573ヘレスティア:元々2人には少しの間他国へ逃げてもらおうと思っていたのだけれど少し早めるしか無さそうね。

574ヴィクトール:他国ですか。

575ヘレスティア:えぇ。フラカン帝国に私の友人がいるの。その人に貴方達の事をお願いしてあるわ。

576ヴィクトール:しかし母上、シルヴィは未だに外を出たことがありません。あまりに危険すぎます。

577シルヴィーナ:大丈夫です、お兄様。事は一刻を争います。チャンスは一度きりだと心得ております。

578ヘレスティア:えぇ、そうね。それに彼も一緒だわ。きっと大丈夫。


(間)


579ラシリア:レニー様。

580レオナルド:ラシリア?どうしてここへ?早く上に戻らないとラシリアが……

581ラシリア:王妃様より伝言がございます。この後ヴィクトール様が屋敷にいらっしゃいます。その時に従者に紛れて馬車に乗るようにとの事です。そのまま国境へ向かいます。

582レオナルド:ここからどうやって出ると?

583ラシリア:私が鍵を開けますのでお逃げ下さい。

584レオナルド:それではラシリアに危険が!

585ラシリア:私は大丈夫です、レニー様。

586レオナルド:しかし父上がどういう人かはラシリアも知っているだろう?

587ラシリア:……今だけ、私を信じては頂けませんか。

588レオナルド:……っ、分かった。よろしく頼む。


(間)


589ヘレスティア:シルヴィ、これでよかったかしら?

590シルヴィーナ:え?

591ヘレスティア:貴方に何もしてあげられなかったわ。守りきれなかった。

592シルヴィーナ:いえ。お母様はいつも私を守って下さいました。ラルムと蔑まれてきた私にとって、いえ、私達にとって、お母様が堂々としている姿はとても誇りなのです。

593ヘレスティア:シルヴィ……。

594シルヴィーナ:これからはレニー様の事を誠心誠意支え、お母様の様な立派な女性になりたいと思います。

595ヘレスティア:そう。……元気でね。身体には気をつけるのよ。

596シルヴィーナ:はい、また。お母様もお元気で。

597ヴィクトール:シルヴィ、そろそろ出るぞ。

598シルヴィーナ:はい、お兄様。

599ヘレスティア:ヴィクトール、シルヴィをよろしくね。

600ヴィクトール:お任せ下さい。必ずレオナルドの元に届けます。


(間)


601ラシリア:レオナルド様。

602レオナルド:ヴィクトール様は?

603ラシリア:旦那様のお相手をなさっています。本日はパーティが開かれておりますので警備の手も薄くなっております。

(地下牢の鍵が空く)

604ラシリア:開きました。早く、行きますよ!

605レオナルド:あ、あぁ。

(移動しながらのイメージ)

606ラシリア:裏門に王家の馬車が用意してあります。そちらにお乗り下さい。中には着替えの用意がありますので移動しながら着替えてください。

607レオナルド:分かった。

608ラシリア:裏門でヴィクトール様がお待ちです。そこからのお話はヴィクトール様からお聞きください。

609レオナルド:ラシリア?

610ラシリア:私は別にやらなければ行けない事がありますので私はここまでです。今の時間、裏門までの道に人はおりませんがお急ぎ下さい。

611レオナルド:あぁ。……何から何までありがとう、ラシリア。

612ラシリア:またお会いしましょう、レニー様。


(間)


613ヴィクトール:レオナルド!

614レオナルド:ヴィクトール様!この度は……

615ヴィクトール:そんなのは良い。あまり時間もないから手短に話すぞ。

616レオナルド:はい。

617ヴィクトール:この馬車に乗って港に着いたらイザベルという店に行け。そこにシルヴィがいる。そしてこの証を見せるんだ。店主が船に案内する手筈になっている。その船でフラカン帝国に向かえ。

618レオナルド:分かりました。

619ヴィクトール:フラカン帝国に付けばもう安全だ。

620レオナルド:ありがとうございます。

621ヴィクトール:……一つだけ聞かせてくれ。

622レオナルド:はい?

623ヴィクトール:シルヴィを一生守り抜くと誓えるか?

624レオナルド:……はい。勿論です。

625ヴィクトール:そうか。……妹をよろしく頼む。






(長めに間を開けるといいかもしれません)


626ラシリアN:この一連の騒動で様々な事が起きました。まずはシルヴィーナ様が王家の一員として世に発表されました。王の働きかけもあり、貴族の中でラルムに関する考えが一新される事となりました。そして公爵家嫡男の失踪。これは社交界を震わせることとなりました。ご本人は全く気づいていない様でしたが、レオナルド様はこの国で二番目の令息ですから、ご令嬢からの人気も凄まじいものでした。当の本人はシルヴィ様に夢中で気づいてもいませんでしたが。そして公爵家騒動。王国を守る4つの家門のうちの1つが没落。これは国王様、そして王妃様の基盤を強化するきっかけとなったのでした。


(間)


627ヴィクトール:ルーラック・ローディス!

628ルーラック:王太子殿下……こんな時間にどうなされたんですか?

629ヴィクトール:ルーラック・ローディス。王族監禁の罪で逮捕する。連れて行け!

630ルーラック:ちょっと待ってください、なんの事です?

631ヴィクトール:貴様、我が妹の婚約者であるレオナルドを地下牢に監禁したな?

632ルーラック:王族監禁?なんの事でしょうか?それに……レニーは私の息子ですが?

633ヴィクトール:この家で監禁された時、レオナルドは既にシルヴィーナと籍を入れた後だったのだ。彼は神殿長の許可を得て王家に入る事を認められている。その証書も残っている。……理解したか?

634ルーラック:レニーは既に王族だった、と。

635ヘレスティア:そういうことだ。

636ルーラック:貴様……!

637ヴィクトール:王妃様の御前だぞ、ローディス公爵。いや、もう公爵ではないか。

638ルーラック:俺をはめやがって……!くそ!!!

639ヘレスティア:やり過ぎたな、ルーラック。






640ラシリアN:そして私の大事なおふたりはというと……。


(間)


641シルヴィーナ:レニー様!レニー様!

642レオナルド:シルヴィ、走ると危ないよ!

643シルヴィーナ:これはなんですか?

644レオナルド:それはフルーツだよ。

645シルヴィーナ:見てください!とても細かい刺繍がされています!凄いですね!

646レオナルド:あまり遠くに行くとはぐれてしまうよ!

647ラシリア:レニー様、約束の時間までまだ少しありますし、シルヴィ様と少し市場を見てきては如何ですか?

648レオナルド:あぁ、そうするよ。

649ラシリア:行ってらっしゃいませ。


(終)

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