【男2:女1】あさひを照らすは幸の調

男2:女1/時間目安20分


【題名】
あさひを照らすは幸の調
(あさひをてらすはゆきのしらべ)


【登場人物】
小倉幸(おぐら ゆき):愛する人と結ばれなかった人。
斉藤朝陽(さいとう あさひ):愛する人に振り向いて貰えなかった人。
旭圭一郎(あさひ けいいちろう):愛する人の手を掴めなかった人。


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『あさひを照らすは幸の調』作者:なる
https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/22986991
小倉幸(女):
斉藤朝陽(男):
旭圭一郎(男):



-------- ✽ --------





001 幸:けいちゃん。……私達ね、結婚するの。


002 圭一郎M:何も悟らせまいと目を瞑る彼女は、あの日のように、とても美しかったんだ。






003 朝陽(タイトルコール):『あさひを照らすは幸の調』






004 幸:私さ、けいちゃんにピアノ、弾いて欲しいの。結婚式で。

005 圭一郎:いやいや、勘弁してくれ。もう長い事弾いてないから腕も訛ってるだろうし。

006 朝陽:ケイ、お前ピアノ弾けたのか……。

007 幸:けいちゃん、ピアノ上手なんだよ。……知らなかったんだ。

008 朝陽:そんな話聞いたことない。てか、そもそも話すらした事ない。男同士の会話で楽器の話なんて出てこないだろ。

009 幸:そういうもん?

010 朝陽:そういうもん。

011 幸:そっか。……それで、けいちゃん的にはどうなの?

012 圭一郎:いや、結婚式で弾くなんてそんな大役俺には……。

013 幸:いいじゃん。あの曲弾いてよ。

014 圭一郎:あの曲……。

015 朝陽:なぁー、俺の事除け者にするなよ。あの曲って何だ。

016 幸:私がよく寝る前に家で流してる曲。

017 朝陽:あぁ、あれか。

018 幸:あれ、けいちゃんに教えてもらったの。高校の時に。

019 朝陽:へ〜。そういえばさ、2人ってどこで知り合ったんだ?

020 圭一郎:どこだったっけ?

021 朝陽:同じクラスになったの3年だろ?幸が『けいちゃん』なんて男の事ちゃん付けで呼ぶの初めて見たから驚いたの今でも覚えてる。

022 幸:けいちゃんとはね、高1の時たまたま音楽室で会ったの。

023 圭一郎:あぁ、あの時か。

024 幸:ふらっと校舎を歩いてたらピアノの音がして、その音を辿ったらけいちゃんがいたの。

025 朝陽:へー、なんかロマンチックだな。

026 幸:でしょ?

027 圭一郎:それからたまに音楽室で会うようになって、高3で同じクラスになったんだったな。懐かしい。

028 幸:けいちゃん、音楽室の住人って言われてたんだよ。

029 朝陽:あ、それ俺も聞いたことある。

030 圭一郎:え、そんなこと言われてたの?

031 幸:うん。知らなかった?

032 朝陽:まぁそういうあだ名って基本 本人の耳には入らないもんだよな。

033 圭一郎:幸もあだ名あったよな?

034 幸:高嶺の天使、でしょ?

035 朝陽:それそれ!いやー幸の人気凄かったもんな。

036 幸:高嶺とか天使とか、高校生がつけそうな名前よね。くだらない。喋ったこともろくにないのに、高嶺とか。体(てい)のいいイジメよ。

037 圭一郎:そうかな。俺はピッタリだと思うけど、高嶺の天使。

038 幸:そう思う?

039 圭一郎:俺は……いいと思うよ。音楽室の住人よりかは良くない?

040 幸:確かに。

041 朝陽:なんだよ、お前ら仲良いな。

042 幸:仲良しだよ。ね?

043 圭一郎:あぁ、うん。

044 朝陽:俺とケイも仲良いし。なー、ケイ!

045 圭一郎:そうだね。

046 幸:ふふ、私の方が仲良しみたいだね。

047 朝陽:うるせ。

048 圭一郎:そ、そういえばさ、昔から気になってたんだけど、2人っていつから知り合いなの?

049 幸:んー?……ただの腐れ縁。

050 朝陽:そんな言い方しなくてもいいだろ?幸の親とうちの親、高校の同級生なんだ。だからまぁ、幼なじみってやつだな。

051 幸:それを腐れ縁って言うんでしょう。

052 圭一郎:幼なじみと結婚って凄いな。

053 幸:そう?……一緒にいる時間が長いから、もう新しい人を見つけるのめんどくさくて。

054 朝陽:まぁそれはそうだな。こんなツンデレお嬢様の相手ができるのなんて、俺くらいだろうしな。

055 圭一郎:2人がお似合いってのはよく分かった。

056 朝陽:んまぁ一応許嫁でもあるから、俺らの意志だけではどうにも出来ないところはあるんだけどな。

<朝陽の電話が鳴る>

057 朝陽:あ、ごめん、電話。

058 幸:会社?

059 朝陽:父さんから。ちょっと出てくる。

060 圭一郎:行ってらっしゃい。

<朝陽が店外へ>

061 幸:……けいちゃんは?いい相手いないの?

062 圭一郎:……いないよ。

063 幸:ふふ、嘘つき。

064 圭一郎:なっ!

065 幸:けいちゃんはね、嘘をつく時にちょっと目をそらす癖があるんだよ。……知らなかった?

066 圭一郎:そんなの知らないよ。

067 幸:気になる子がいる、って感じかな。違う?

068 圭一郎:どうして幸にはバレるんだろうなぁ。

069 幸:けいちゃん分かりやすいもん。

070 圭一郎:そうかよ。

071 幸:ふふ、可愛い。……それで、ピアノの件、引き受けてくれる?

072 圭一郎:さっきも言ったけど、結婚式で弾けるような腕じゃないよ。

073 幸:私の友人枠だからいいの。腕とかじゃなくて、けいちゃんのピアノが聞きたいの。

074 圭一郎:はぁ……さっき言ってたあの曲って、そんな結婚式向けじゃないと思うけど。

075 幸:そっか。……私あの曲好きなんだけどなぁ。

076 圭一郎:どちらかと言えば失恋ソングだろ、あれ。

077 幸:まぁそうだね。……あ、でもその歌の事は朝陽にはナイショね。

078 圭一郎:なんで?朝陽知ってんだろ?

079 幸:ううん、あの曲の事、あの人は知らないの。

080 圭一郎:さっき流してるって言ってなかった?

081 幸:あれは別の曲の話。

082 圭一郎:どうしてそんな嘘……あれ、俺の勘違いだった?

083 幸:ううん。合ってるよ。私が覚えて弾いてってけいちゃんに言った曲だもん。

084 圭一郎:別に朝陽に教えたって……。

085 幸:私とけいちゃんの思い出を、どうして朝陽に教えなきゃいけないの?

086 圭一郎:……え。

087 幸:……1つくらい朝陽に秘密があってもいいじゃない。

088 圭一郎:幸……?

089 幸:……ごめん。忘れて。


(間)


090 朝陽:はー、ったく……。

091 圭一郎:あぁ、朝陽。おかえり。

092 幸:大丈夫だったの?

093 朝陽:なんか取引先とトラブったらしい。

094 幸:その割に早かったね。

095 朝陽:今状況確認中だからまた連絡するってさ。まったく……。

096 幸:確認の段階で朝陽に連絡してくるなんてよっぽどね。

097 圭一郎:そうなのか?

098 幸:朝陽、それなりに偉い人だから。次期社長候補なんて言われてるの。

099 圭一郎:へぇ、凄い。

100 朝陽:社長の一人娘であるお前と結婚するからそうやって俺に媚びておきたいだけだろ。能力だけなら俺より優秀なやつなんて山ほどいる。

101 幸:まぁそうね。

102 朝陽:もう少し俺に優しくてもいいんじゃないか?

103 幸:そう?……十分優しいと思うけど、あさひには。……ね?

104 朝陽:そうかよ。

105 幸:そうよ。

106 朝陽:あれ、ケイはなんの仕事してるんだっけ?

107 圭一郎:ただの会社員だよ。

108 朝陽:どんな仕事してるのかくらい教えてくれてもいいだろ?

109 圭一郎:2人の前でいうの恥ずかしいんだよ。

110 朝陽:え、なんで。

111 圭一郎:2人ほどすごい職じゃないからだよ。

112 幸:そんなこと気にしなくていいのに。……それに、私はただの社長令嬢で、職業じゃないから。

113 圭一郎:そうは言っても。

114 幸:教えて欲しいな。

115 圭一郎:……っ……食品会社で経理やってる。

116 朝陽:経理か、凄いじゃないか。

117 幸:朝陽、けいちゃんの事引き抜いたら?

118 朝陽:いいな、それ。ケイ、どうだ?

119 圭一郎:いや、有難い話だけど……俺にはもったいない話だよ。そんなに能力も高くないし。

120 幸:その辺は朝陽がなんとかするだろうし、大丈夫、けいちゃん頭いいから。

121 圭一郎:幸は俺の評価が高すぎるよ。俺はそんな出来たやつじゃない。

122 朝陽:いや、ケイは凄いやつだと思うぞ?まず幸と仲良くなれてる時点でかなり。

123 幸:けいちゃんは凄い人だよ。私の評価が高いんじゃなくて、けいちゃんの自己評価が低すぎるの。

124 圭一郎:それは……そうかもしれないけど。

125 幸:自信もって。

126 朝陽:幸はやけにケイに甘いよなー。

127 幸:そう?

128 朝陽:俺に厳しすぎるとも言う。

129 幸:それは腐れ縁だから。……それにけいちゃんは、珍しく私に普通に接してくれた人だから。特別。

130 圭一郎:珍しいって言っても俺は特別なことは何もしてない。

131 幸:私、それなりに有名な会社の一人娘だから。それ目的で近づいてくる人ばっかりなの。だから、何も知らないけいちゃんは私にとってヒーローだったんだよ。

132 圭一郎:ヒーロー、か。

133 朝陽:(小声で呟く)ヒーローは俺だったのに。

134 圭一郎:……朝陽?

135 朝陽:ん?どうした?

136 圭一郎:電話鳴ってるよ。

137 朝陽:あ、悪い。ちょっと出てくる。

138 幸:……行ってらっしゃい。


(間)


<グラスを見つめる幸>

139 圭一郎:そんなにグラスを見つめてどうした?水頼もうか?

140 幸:……私の思い出も全部、飲み込んでしまえたらいいのに。

141 圭一郎:えーっと、幸?

142 幸:思い出を全部このカクテルと混ぜて飲み込んでしまえたら、こんなに悩まなかったのにって。

143 圭一郎:俺でいいなら話聞くよ?

144 幸:ふふ、けいちゃんの困った顔は見たいけど、困らせたいわけじゃないから。やめとく。

145 圭一郎:そっか。

146 幸:けいちゃんはさ、さっき言ってた気になる子に告白はしないの?

147 圭一郎:なに?また急に。

148 幸:気になったから聞いただけ。

149 圭一郎:そうだなぁ……気になる子はそれなりに交流がある子だから、もし失敗したらと思うとね。俺にはそれを壊す勇気はない。

150 幸:……そう。

151 圭一郎:これからもずっと伝えないままでいい。……それで誰も傷つかないなら。

152 幸:……けいちゃんはきっと、またヒーローになれるよ。

153 圭一郎:あはは、それどういう意味?

154 幸:けいちゃんがヒーローなら、私はワルモノだから。……けいちゃんの事、攫っちゃおうかな。

155 圭一郎:幸の例え話は難しいね、相変わらず。

156 幸:頭のいい旭くんなら、私が何を言いたいのか分かるでしょ?

157 圭一郎:……全然分かんないよ。

158 幸:……嘘つき。

159 圭一郎:あの、さ。幸は朝陽との結婚、どう思ってるの?

160 幸:最善、かな。

161 圭一郎:何それ。

162 幸:誰も傷つかない、最善。

163 圭一郎:幸はさ、朝陽の事、その……。

<朝陽が戻ってくる>

164 朝陽:幸ー。社長が電話変われって(※被り)

165 幸:(※被り)好きだよ、あさひの事。


(終)

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